石を並べる | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 幼少期から石ころを収集している。物心が着く以前からの趣味である。或いは、生来の癖なのかもしれない。あまりにも根深い嗜好なので他ならぬ私自身にも動機は説明し難い。単純にそうした習性を持つ動物であるというだけの事であり、それ以上の理由を唱えてもこじつけにしかならないだろう。
 
 しかし、石ころなどは簡単に入手できる物であり、気持ちが赴くまま際限なく収集数を増加させると管理が行き届かなくなるので、成長してからの私は散歩中に道端などで興味深い個体を発見したとしても自宅に持ち帰るかどうかは慎重に判断するように心掛けている。時には気になった個体を何年も空き地の片隅などに放置しておき、通り掛る度にじっくり観察してみる場合もある。
 
 そして、自宅に保管してある石ころについては定期的に箱から出し、布切れで磨いてみる。それらの一つずつを見つめると名札など付けていなくても出会いから今日に至るまでの道程をはっきりと思い出せる。この自宅に招き入れられてからも石ころはただ保管され続けるわけではない。幾つかの逸品については専用の台に飾られるのだ。それらの配置については強いこだわりがあり、石ころを小刻みに移動させながら絶妙なバランスを探す作業に打ち込んでいる最中こそが私にとっては日常生活において最も充実できる至福の一時なのである。それは自分の感性に従って信念を実現させる真摯な儀式だ。だからこそ、新入りの逸品をそこに参加させるといったような大きな変化に直面すると何日も配置に悩む羽目になる。一方で、まだまだ手元には材料が不足しているという気持ちもある。私自身がさらなる成長を志しているように、台上の作品も常に様相を変えているのである。

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