サイコロの音 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 示された刑期は『サイコロを転がして五回連続で同一の目が出るまで』だった。しかし、これがなかなか出やしない。俺はもう十数日も収監されていて、数え切れないくらい転がしている。サイコロ自体にセンサーが内臓されているからズルもできない。逆に言えば結果を見守っている必要もない。視界の片隅でサイコロの位置を確認し、掴み、転がす。それだけの行為を延々と繰り返す。転がすというからには最低でも一回転はさせなければカウントされない。
 
 初日は睡眠と食事以外の時間のほとんどを費やしてサイコロを振り続けた。二日目か三日目辺りもまだ熱意と関心は薄れていなかった。なにしろ五回連続で同一の目が出ればその瞬間に独房の扉が開口するのだ。実際に監獄内の他の扉が開き、囚人が歓喜の雄叫びを挙げる声もここに来てから何度か聞いた。だから決して不可能な条件ではないのだ。しかし、何度挑戦を繰り返してみても一向に思わしい結果が出ない為に俺はすっかり挫折感に打ちひしがれた。自分のツキのなさが恨めしい。囚人の中には収監されてから数時間で出所していく者もいるのだ。
 
 あまりにも不公平で胸がむかついて仕方ないので、今ではサイコロの内部に特殊な仕掛けがあって密かに設定された期日までは成功しないように細工されているのではないかと訝っている。しかし、それにしても俺が犯した罪の重さに対して不当に拘留期間が長引いていないだろうか?真面目にサイコロを振り続ける作業が馬鹿らしく感じられるで、簡易ベッドに寝転んだまま茫然と天井を見つめて過ごす時間の割合が徐々に増えてきている。監獄の他の牢屋からは相変わらずサイコロが転がる音が絶えず聞こえてきているが、その物音はなるべく無視している。

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