くるくる | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 頭の中で想像上の輪っかが回転している。そもそもの発端は数日前に受けた授業だ。学校で天体の運行について教わっていて教師が惑星の公転と自転について解説したのだ。恒星の周囲を重力と遠心力の釣り合いで回っている運動が公転であり、惑星自体が回っている運動が自転だ。その話を聞いていて私は輪のように中身がない物体の回転はどちらに分類されるべきであろうかと考え始めたのだ。公転なのか、自転なのか?それ以来、頭の中では一個の輪っかが回り続けている。誰かと会話している間や勉強中は無視できるが、ちょっと暇な時間が出来るとすぐに意識させられる。

 そもそも天体の運行に強い関心を持っていたわけではないし、ほんの気まぐれで考え始めた事柄に過ぎないつもりだったのだが、輪の像はどうしても頭から消え去らない。ハムスターを入れて走らせてみたりといった想像も弄んでみたが、それもすぐに飽きた。かなり食傷気味である。

 そんなある日、学校から帰宅してテレビの電源を入れると臨時ニュースを放送している。隣国が軍事侵攻してきたらしい。戦争勃発である。晴天の霹靂であったので私は食い入るように画面に見入る。アナウンサーの言葉に耳を傾ける。動悸が激しく脈打っている。意識の片隅で輪の回転が速度を増している。私は息苦しさを感じる。あまりにも高速で回るので空気を切り裂くような音が聞こえてくる。アナウンサーの声が耳に入ってこなくなる。かろうじて聞き取れた単語の一つずつの意味さえ理解し難いように感じられる。輪は意識の中で急激に巨大化してきている。画面では空母や戦車などといった仰々しい大型兵器が紹介されている。砲台からはミサイルが発射され、市街地付近に黒い爆煙が立ち上っている。

 私は目眩に襲われる。世界全体が大きく傾斜して重力の方向が曖昧になったように感じられる。ふと、空中に浮いていたはずの輪が平面の大地に接触する。すると、転がりながら凄まじい勢いで私から離れていく。意識内から騒音が消え失せる。その静寂が新鮮なので私はしばし呆然とするが、すぐに理性を回復する。避難するべきだろうかと慎重に思案を始める。

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