過去の手 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 気まぐれに屋敷の一角を掃除していて倉庫の奥深い場所に一つの古ぼけた箱を見つけた。それはまったく見覚えのない代物であり、何が入っているのか、咄嗟には見当も着かなかったが、だからこそ好奇心を掻き立てられ、すぐさま開けてみる事にした。
 
 果たして箱の中身は紙粘土で作成された片手の像であった。私はそれを見た途端に様々な記憶が一挙に蘇ってくるように感じ、少しばかり当惑させられた。その手はかつて私がまだ少年だった頃に学校の授業で作った物だった。
 
 なんとなく感慨深いので私はしばし清掃作業を中断し、じっくりと得心のいくまでその作品を鑑賞してみようと考えた。手はおそらくそれを創造した頃の自分と同じくらいの大きさで、五本の指はすべて少しずつ曲げられていて関節の存在がわかるように工夫されていた。爪はなかった。
 
 その造形を様々な角度から観察しながら、私は少年時代の心象がどこかに反映されていないものかと期待していた。何かを掴み取ろうとしているのであれば、何を掴み取ろうとしているのか?どこかに差し出されようとしているのであれば、どこに差し出されようとしているのか?しかし、どれだけ丹念に見つめたところで製作時の記憶はほとんど蘇らなかった。その手が自分の創造物であるかと誰かから問われれば、残念ながら私としては確信を伴った回答を持ち合わせないのだった。
 
 そして、自らの記憶力に失望を覚えると私は急激に興味が失せていくように感じ、その手を箱に戻して屋敷の掃除を再開した。

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