そこにある余白 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 旅に出たいと思う。どこか、今まで行った試しがない場所が望ましい。一歩ずつ好奇心が小躍りするような、そんな刺激に満ちた冒険を体験してみたいものである。どこがいいだろう?すぐさま幾つかの候補地が頭を過るが、まだまだ選択肢を増したいと考え、とりあえず資料を入手する為に書店まで出掛けてみようと思い立つ。
 
 今日は晴天だっただろうか?窓の外へと目を遣ると、今まで一度も立ち入った事がない空間がそこに存在しているという事実に気付く。ベランダから思い切り腕を伸ばしたとしても手が届かない。それどころか、室内から全力で助走を付けて跳躍したしても正面の建物までは到達せずに真下の道路に墜落して肉塊が自動車などに轢かれる羽目になるだろう。だとすると、あの空間は私を拒む侵入不可の領域なのか?この人生において私はあの空間に立ち入れないという不自由を強いられているのだろうか?期せずして自らの境遇やら運命やらを悟らされ、途端に忸怩たる心境になってくる。もどかしくて仕方がない。
 
 いや、きっと方法はある。正面の建物との間にロープを張れば侵入は可能だろう。私はその解決方法を思い付くと腹部の内側で極太の喜悦がのたうち回るように感じ、書店に行く予定を取り止めて登山用具店へと急行する事にした。

目次(超短編小説)