天井が高い | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 この部屋は天井が高い。入居した当初は開放感があるという点に心浮き立つような好印象を抱いていたのだが、幾つかの季節を経てみて、冷暖房の効き目が弱いという難点に気付かされた。この一帯はどちらかというと年間平均気温が低い地域に属しているので夏はまだ比較的過ごしやすいのだが、例えば冬のよく冷えた夜更け、帰宅してから室内が暖まるまでの時間が、私のような独り身にとってはとても侘しいのである。もちろん光熱費の面においても無駄が大きい。
 
 それに、最近、別の欠点にも気が付いた。つまり、天井の照明装置に内蔵されている蛍光灯が寿命を迎えた場合にそれをどうやって新品と交換するのか、という問題を考え始めると適当な解決策がなかなか思い浮かばないのである。天井は机や椅子の上に立って手が届くような高さではない。室内の家具から足場を選ぶとなると箪笥しかないが、一度衣類をすべて出さなければ重過ぎて照明装置の真下までは移動できないだろうし、そもそも人間の体重を乗せるという前提で製造された家具ではないという点が心許ない。とはいえ、蛍光灯を取り替えるだけの為に大きな脚立を購入するというのも面倒である。そのような使用頻度が低い物品の為に室内が今以上に狭くなるなどという事態は真っ平御免である。そして、もちろんこの問題は蛍光灯が寿命を迎える前に解決しておかなければならない。それどころか、むしろ先手を打って今の内に照明装置のカバーを外して使用されている蛍光灯の規格を調べ、来るべき時の為にあらかじめ新品を用意しておくぐらいの準備が必要とされているような気さえする。

 この集合住宅はほとんど同じような間取りの部屋が連なっている。天井の高さも違いがないはずである。だとすると、他の住人はどのような方法でこの問題に対処しているのだろうか?それとなく問い質してみたいものだが、引っ越ししてきてから結構な期間が経つというのに、ほとんど面識がない。
 
 私は天井を見上げながら蛍光灯の寿命を慮って不安を覚える。最近ではそのせいで他の場所に転居したいという衝動にさえ駆られている始末である。

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