読んでいた書物の内容がちょうど一段落したので久しぶりに整然とした文字の羅列以外のものを見たくなり、がらんとしたカフェの店内をぐるりと見回してから再び手元の本へと視線を戻す。そして、ふと構造体としての本に着目する。そこに冊子としてまとめられている平坦な紙の密度について考え始める。もし一枚ずつを分解し、丸めて箱や袋に収容するとしたらどれだけの容量が必要になるだろうか?本はこの社会においてさして珍しくもない物体ではあるのだが、紙の密度という一点においてはまったく驚嘆すべき形態を有しているのである。私はそのような発見をするのと同時に、手元の本が何かの弾みで圧縮の臨界点を突破して暴発するのではないかという危惧を抱く。
それでは、この一冊の爆弾が仕掛けられるべき適当な場所はどこであろう?やはり果物屋だろうか?私はちょっとした思案の末にそのような考えに至る。まだ読了したわけではないのだが、本を閉じ、勘定を済ませようと席を立つ。マントを羽織り、繁華街をぶらりと練り歩いてみようかと思っている。
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