夜、ふと覚醒する。静まり返っている。耳を澄まし、屋外の微かな物音まで聞き逃すまいと努力してみたところで何も聞こえてこない。静寂はまるでこの寝室から全方位に対して途轍もない遠方にまで広がっているような気配である。この宇宙空間内には音も光もまったく到達していない暗黒地帯が何箇所か存在しているのかもしれず、ひょっとして知らない間にそんなどこかに迷い込んだのかもしれないという懸念が頭を過る。私は瞼を開けてみようかと迷う。自分がどこで睡眠を取っているのか確認したい。しかしながら目を閉じたまま即座に夢の世界に舞い戻りたいという欲求も同時に感じている。意識内で睡魔と不安が葛藤している。とりあえず布団の感触はある。枕にも違和感はない。ただ、静寂の長さだけが不自然である。この住宅街において沈黙がこれだけ継続する事などあり得るのだろうか?私は息を潜めたまま物音が聞こえてくる瞬間を待ち構える。近所の道路を一台の自動車が通過するだけで事足りる。聞こえてくれば安堵して再び熟睡しよう。しかし、それは失望の瞬間でもある。なぜならば、私は現時点における微妙な均衡状態がなんとなく気に入り始めている。あともう少しで自分が壮大な宇宙旅行の最中であると信じ込めるような気がする。既にそのように考えた方がしっくりくる程に沈黙が長引いている。私はこのしじまに対してちょっとした奇跡を覚え始めているのだった。
目次(超短編小説)