淑女は何を忘れたか? | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 外出中、空腹感が疼いて仕方ないので不審に思い、たまたま化粧室に入る機会に恵まれたので腹部を切開して中を覗いてみたところ、あるべき胃袋がどこにも見当たらない。どうも屋敷に忘れてきたようである。それで、今朝はコルセットの装着にほとんど手間取らなかったわけである。その時点で気付かなかった事が悔やまれるが、むしろ一連の作業があまりにもスムーズに進行したからこそ、ちょっとした違和感に着目する機会を逸したわけである。或いは、それならば朝の時点で空腹になりそうなものだが、まだ寝惚けていたのだから仕方がない。それに、外出前にいちいち胃袋の有無を確認するという習慣もない。いずれにせよ、忘れるべくして忘れたわけである。というより、今は空腹のせいで、反省という行為自体が億劫で仕方ない。意識の中央にのさばるこの厄介な感覚を排除しなければ正常に思考が機能しない。まずは肉体的な欲望を遮断しよう。そして、今日はこの状態のまま遣り過ごす事にしよう。どうせ一日程度の絶食で健康状態が悪化するはずもない。
 
 さあ、化粧室から飛び出そう。急いで約束の場所へ行かなければならない。既に遅刻する公算が強まっている。

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