昼食を取ろうかと恋人に尋ねると、彼女はゆっくりと首を横に振る。食欲がないのかと質問すると、幾つかの内臓を自宅に忘れてきたのだと打ち明ける。或いは、ひょっとして道端で落としたかもしれない、などと心許ない発言をする。しかし、いくら便利な世の中になったとはいえ、胃袋や腸は街角のコンビニなどで容易に入手できるような代物ではないし、運良く肉体屋が見つかったとしても値段だって馬鹿にならない。
そこで、僕達は個室付きのレストランを探し出して入店し、上半身の衣服を脱いで内臓を交換しながら昼食を食べた。もちろん随分と時間が掛かる食事にはなったが、二人で空腹を抱えながら彼女の住居に戻るまでの長い道のりを歩くよりは格段に苦痛が少ないはずであると納得できた。それに、これは楽観的過ぎる見方かもしれないが、僕としては自分達の関係がより一層深まったような気さえしていたのだった。
「この胃袋は色合いが素敵ね?」
「エメラルドグリーンさ。形状も、奇抜で面白いだろ?」
「腸を装着するから、そちら側を持っていてもらえるかしら?」
「ちゃんと先っぽを摘んでいないと中身がこぼれるから注意しなよ」
「体液のせいで全身がベトベトになったわ」
「それならシャワーを浴びられる場所に行こう」
目次(超短編小説)