飛べの注射 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 「飛べ」
 
 その一言を注射器に装填し、針を足の静脈に突き刺して慎重に適量を注入する。すると、途端に全身が燃えるように熱くなる。体中の筋肉が硬直し、限界以上に収縮しようとして激しく振動している。骨が軋む音が聞こえる。血流が際限なく加速する。たくさんの酸素を吸い込もうとして呼吸が乱れる。たちまち意識が薄れていく。抵抗する気力が湧かない。
 
 目が覚めると背中から翼が生えている。それは自分の意志で自在に動く。しかし、まだ大空を飛び回ることはできない。せいぜい肉体を数十秒ばかり空中に浮かせていられる程度である。説明書には二回目の注射で足からプロペラが生え、三回目で後頭部からガス入りの気球が出てくると書かれている。そして、それぞれの注射には少なくとも一日の間隔を開けなければならない。そうした手順をしっかりと守らなければ変身が不十分なものになるらしい。だから今日はこれで終了である。


「注射」シリーズ

叫べの注射
飛べの注射

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