近世人は予測する(2) | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 ふと街角の景観を見回してみる。霧雨の中を行き交う人々は、おそらく全員が中世人である。或いは、私自身を中世人と定義すると、目下のところ彼等は古代人に属しているわけである。私がその事実を伝えれば、大方の人々が眉を潜めるだろう。その表情は無理解と不快感を示している。だとすると、私は非常に孤独な存在である。

 どうやら鬱屈する理由が天候以外にもう一つ増えたらしい。しかも、霧雨はやがて止むだろうが、他愛もない優越感から生じる孤独という状況は、ひょっとすると生涯にわたって私を苦しめるかもしれない。そもそも近世人などという、ほとんど実益を伴う見込みがない称号に魅力を感じた時点から不幸が始まっていたのだろう。

 今からでも手遅れではないかもしれない。先ほどまで思案していた未来観を一刻も早く完全に否定すべきである。どうも楽観的すぎるのではないか、という懸念は当初から感じていたのだ。慎重に検討し直してみることにしよう。

 改めて考えてみると、全宇宙で発生する出来事を全て正確に予知し、その情報を災害や事故などの未然防止に役立たせる、などと言った案件が実現する見込みは少しでもあるのだろうか?その為には宇宙全体を把握することが不可欠になるだろうが、その作業自体が途轍もなく困難なのではないだろうか?なぜなら、ほんの僅かな間違いが将来的に大きな誤差を生じさせていくという事を考慮すれば、情報を極めて緻密に収集しておく必要がある。そして、人類の安全を守る為にあらゆる可能性を検討しなければならないとすれば、それを処理する計算機は懐に無限個の宇宙を抱え込んでいるようなものである。

 明るく輝く電球を原始人に見せれば、彼等は魅惑されながらも極端に警戒心を働かせるだろう。私も自分自身の思索の展開に対して、彼等と同様の心境に至りつつある。そもそも、そのような計算機を構成する材料は宇宙全体の質量を大幅に超過しているのではないか?要領よく僅かな材料で製作できたとしても、一箇所に集中させれば重力によって中心部分が溶解していくだろうし、分散させれば情報伝達の効率が悪くなるはずである。

 全く実現性があるとは思われない。しかし、予知の目的が人類の保安にあるとすれば、それを達成する方法は他にも考えられるのではないか?人類の居住地区をあらかじめ限定し、人口を増えすぎないように調整しておく。そして、その宙域の周辺だけを詳細に予知しておけば良いのだ。宇宙全体で発生する出来事は大まかに把握しておくだけで充分である。

 おそらく未来の人類は脳を機械と接続させ、仮想現実の中で生きているはずである。その方法ならば限定された宙域の中でより多数の人間が生存できるのではないか?宇宙の果てまで探検したいと考える個人や、子供を産みたいと思う個人は、仮想現実の中でそれぞれの願望を達成するべきである。

 孤独な近世人とはいえ、私自身も種族の一員として、人類全体の幸福な未来を願わない事はないのである。そして、現在を生きている人類にとって、「ここに留まる。」という選択肢は絶対にあり得ない。なぜなら産業革命以来の文明はもはや永続不能な段階に突入しているのだから。


近世人は予測するシリーズ

近世人は予測する(1)
近世人は予測する(2)
近世人は予測する(3)

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