お稽古のこと


6月15日に国立能楽堂で能の海人を勤めます。5月も終わりに近づき、いよいよ舞台が近くなってきて、程よい緊張感が出てまいりました。今回は能楽師のお稽古について少し紹介します。




能楽師は能の舞台が決まると、必ず「稽古」をしなければいけません。今回はシテ(主役)がついた時のケースで紹介します。


前回の記事は👇



 稽古って何をするの


では、具体的にはどんな稽古をするのか説明します。おそらく多くの方がお待ちのイメージは、舞台の上で着物を着て汗だくになりながらしている姿かなと思います。まあ確かにそうなのですが、実はこれはお稽古の中では最終段階です。


まず何といっても、稽古のスタートは「謡」を覚えることが第一になります。ここの謡を覚える作業は稽古の大部分を占めます。能楽師の最も重要な仕事といって過言ではありません。その後やっと、型という動き、いわゆる振り付けを覚えていきます。


 謡の暗記


謡は、調子が良いと何度か謡うだけでスーッと身体にに入ってきて上手に覚えられます。謡本の役部分と関わる箇所は最低でも全て暗記します。


ストレスが多い時や頭の中が考え事で渋滞している時などは、たいてい全然覚えられません。


この段階の時は家族にとても迷惑をかけている気がします。僕の場合、話しかけられても内容が左から右に抜けていくようですし、イライラしているようです。もしもそのような能楽師が周りにいたら、たぶん頭が稽古中モードなので、くれぐれも触らずに眺めるだけで、優しく扱ってあげてください。


ちなみに能の場合、こういった作業は決して練習とは言いません。稽古というのは、古を考える(稽)という意味です。つまり先人の積み上げてきたものを身体に入れて、自分のものにする。そうして学んでいきます。なので謡を覚えるのも稽古だという事になります。



話を戻します。

写真にある黒文字が謡文句、そして右側に書いてある赤字のが型附けというものです。これは師匠であるご宗家の型附けを写したものです。


能楽の世界では、弟子は先生の附けを手作業で写して頂戴します。僕の場合は、自分で写したものと祖父が写したものの二つが存在します。また祖父は筆豆なので、先代のご宗家と現宗家(僕の先生)から稽古を受けた時のメモ書きがたくさん残っています。これを参考にして稽古に役立てています。このメモ書きがとても重要で、たとえば「右手を出す」でも、どの高さに出すのか、どんな意味があるのか、は型付けには書いていないことが殆どです。ですから直接習うことの次に役に立つのがメモなのです。


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謡を覚えて、型を覚える。これらは慣れてくると身体を動かさなくともできる作業です。これが終えると、やっと稽古舞台や広間を使っての稽古、例の汗だくの段階に入ります。


僕の場合はある程度覚えた段階で、師匠稽古をお願いします。これは自分の師匠、先生に見て頂くことです。多くの能楽師は初演の演目については師匠または準ずる先輩に習うことが一般的です。


自分のものを作り過ぎていないニュートラルな段階は、謡や型を覚えた直後なので、この時に師から教えて頂くと良いのかなあと思います。師匠稽古をお願いして、そこを期日に覚えなければならないので逆算して稽古を開始します。


今回の海人の師匠稽古はちょうど昨日に終えたところです。謡本や型に書いていない、感覚的なところなどを教えて頂きます。何も仰らない箇所がたくさんありますが、自分で考えなさいという事なのかなと思います。


シテのお稽古をしている合間に、数多くの舞台に出演したら関わっていきます。これもまた学びが多く、他者の良い部分などを見つけては次の自分の舞台に活かす、その繰り返しです。


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今回はお稽古についてでした。次回は海人の舞台の能面について触れたいと思います。


活動・いろいろ






能楽師 有松遼一の「はじめての能! 」

〜能と『源氏物語』を、かさねて楽しむ〜 

2024年 9月14日(土)
第三回「野宮」ゲスト出演
旧三井家下鴨別邸



ワキ方の有松さんが手がける人気講座です。能の面白さを知っていただく為の企画とのこと。僕は第3回目に特別ゲストとして出演します。


📹映像をまじえながら能の“味わい方”を講義

🍁四季折々の古典の名文を紹介

🎵謡の体験

🪭謡の実演鑑賞

🍵お抹茶とお菓子付き




YouTubeもご覧ください!









子ども向けの夏休み企画、能楽体験教室です。8月20〜23日の4日間、能楽師と一緒に、舞ったり謡ったり、してみませんか?


会場👉五反田・池田山舞台


🙆‍♂️一般向けには、3〜8月の半年間、月2回、宝生流の謡コースor金剛流の舞コース、または両コース、能楽師から学べる期間限定の稽古体験教室です。舞コースは私が担当しております。


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申し込み✏️




 主な舞台


⚫︎2024年6月15日

東京・国立能楽堂 潤星会

能「海人」シテ


⚫︎2024年6月22日

京都・観世会館 若手能

能「敦盛」シテ





チケットのご要望・お問い合わせ👇






ECサイト・ISUMI


ISUMIのグッズも宜しくお願い致します。



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