玉取り伝説

志度寺は海ペタにあり、この浦を志度の浦、そして別名"玉の浦"と呼ぶそうです。その謂れに、かつてこの浦に住む海人が龍神の持つ玉(珠とも)を求めて海中に潜った伝説があります。この伝説を元に謡曲が作られ、現在でも能「海人」として上演されています。

(流儀によって「海人」「海士」等と漢字が異なる)


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このお寺に伝わる志度寺縁起の中に、その「海人の玉取り伝説」はあります。


先ずは能「海人」のあらすじをご紹介します。



 房前と海女の出会い


とおく昔のこと。奈良に都があった頃です。藤原不比等(淡海公)の子 房前(ふさざき)大臣という者がいました。その生母が讃州(今の香川県)志度の浦で亡くなったことを知って、追善供養のために志度の浦を訪れます。


するとそこに海松藻(海藻のこと)と鎌を持った海女が現れます。大臣と共にこの浦にきた従臣が、その海女に「海の底の海松藻を刈り除けなさい」と命じます。


海女は彼らが空腹なのだと思い、刈り取ったばかりの海松藻をすすめますが、従臣は「いやそうではなく、水底に映る月を見るため」だと言います。


たとい千尋の底の海松藻なりとも

仰せならばさこそあるべけれ


海女は「たとえ深い深い海底の海松藻だったとしても、刈り除けましょう」と言います。そして、昔、この浦で千尋の海底から一つ名珠(宝の玉)を潜き取った物語があることを話します。


 玉取りと房前出生について


 海女が語ります...


昔、藤原氏の氏寺、興福寺に唐土(もろこし/中国のこと)から三つの宝を贈られました。だが、そのうちの一つ面向不背の玉(名珠)だけ、この浦の沖で龍神に取られてしまいました。それを知った淡海公(房前の父)は珠を取り返すため遥々この浦にやってきます。そこで賤しい海女乙女と契り、一人の男児をもうけます。それが今の房前の大臣なのです...



海女の語りを聞いた房前の大臣は「我こそが房前大臣だ」と明かして、懐旧の涙を流します。海女も、このうえ大臣が賤しい海女の子であるなどと藤原家の名誉を汚すことは云うまいと涙ぐみます。


そして海女は従臣の所望により、昔、龍神に奪われた珠を竜宮から取り返す有様を再現してみせます。


 語られる玉取り


今の御子を世継の位に立て給はば

かの玉を潜くべしと有りしかば


もし宝の珠を取り返すことができたならば、我が子(房前のこと)を世継ぎにすると、淡海公に約束しました。


さては我が子の為捨てん命

露程も惜しからじとて


千尋の縄を腰につけて、剣を抜き、海底に飛び入ります。底の竜宮では龍神たちが住みつき、かの珠を守っています。その周りにも悪魚、鰐の口と、さらに守りを固めています。


さすがに生きては帰れないだろうと悟って、幼い我が子と淡海公に別れを告げ、南無や志度寺の観音薩埵のご加護を祈り、竜宮の中に飛び入ります。


すると飛び入ったその勢いに、龍神たちは驚き、そのたじろぐ隙に、珠を奪います。


そして自らの乳房の下を切り裂き、そこに珠を押し込めて、約束していた腰の縄をひきます。その合図を見て皆が喜んで引き上げます。こうして、珠を取り返すことに成功しました。



人々が引き上げると、海女はすでに息絶えていました。皆が悲しんでいると、微かに海女が「私の乳房のあたりを見て」と言い、よく見ると、剣で裂かれた痕がわかり、その中から光輝くが取り出されました。


「このようにして、約束の如くあなた(房前大臣)は世継ぎの位を手に入れることになったのですよ」と、海女は続けます。「自分こそ、海女、あなたの母の幽霊である」


海女は手紙を残して、波の底に消えるのでした。


 子による母の弔い


 従臣は近くの浦人を呼び、唐土から贈られた三つの宝の一つ、面向不背の玉が龍神奪われたのを海女が取り返したことなどを詳しく聞きます。


 房前の大臣は母である海女の残した置かれた手紙を読み、追善の法要をします。


冥路昏昏として我を弔う人なし

君孝行たらば我が永暗の助けよ


大臣、随臣の法華経の読経に唱和しながら母、海女は経巻を手に竜女の姿となって現れます。法華経を賛美する舞を舞います。


房前大臣の手厚い供養と法華経の功徳によって、海女は成仏することが叶います。子が母を暗闇の世界から救うのでした。








活動・いろいろ


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東京・神田明神 神田明神薪能

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⚫︎2024年6月15日

東京・国立能楽堂 潤星会

能「海人」シテ


⚫︎2024年6月22日

京都・観世会館 若手能

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