月面にアームストロングの足跡は存在しない | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は穂波了。

 

月軌道プラットホーム「ゲートウェイ」、通称LOP-Gでは6人のクルーが参加するアルテミス5計画が進んでいた。宇宙開発の現状を民間人キャスターのキャサリンが配信で地球に伝える、という資金調達を目的としたミッションだ。いまの宇宙飛行の安全性をアピールし、出資者を募ろうということである。しかし彼らに唐突に新たなミッションが通達された。本当は月面に着陸していなかったアームストロングの代わりに足跡をつけるミッションである。冷戦時代にソ連に勝つため、アメリカがついた嘘。このミッションを目の前にしてクルーの意見は真っ二つに割れてしまう。

 

ニール・アームストロングとバズ・オルドリンは本当は月面に着陸しておらず、それはスタジオで撮影した映像だった、というのはよくある陰謀論である。当時の技術では月面着陸は困難で、万が一着陸に失敗して宇宙飛行士が死ねば、アメリカの権威は大きく失墜し、覇権争いでソ連に負けてしまう。

 

それを危惧したアメリカ政府がフェイク映像で世界中の人を騙した、という話だが、結局実際にはどうだったか判明してはおらず、単なる陰謀論と片付けるわけにはいかない話題ではある。LOP-Gに乗り込んでいるのはアメリカ人が4人、日本人が2人、世界情勢を考えて賛成する者、嘘は良くないと反対する者、真っ二つに分かれる。

 

全員の意見が一致してからミッションを遂行する、という結論に落ち着いたのだが、話し合いは平行線を辿り、その間に様々な事故が発生する。ロシアが結構な無茶をする展開だが、実際にいまのロシアは何をするか分からない怖さもあるので、作者はロシア嫌いすぎだろ、と苦笑い出来る状況でもない。


月面の足跡を巡る騒動、穂波さんはSFでデビューしてるし、ミステリよりかは好みかな。ただ、もう一味欲しい感じはある。事故が起き、仲間は死んでいくが、残された人々は工夫してサバイバルしながら救助を待つ。小難しい設定はないので、宇宙でのヒューマンドラマが読みたい人には勧められる。


次は潮谷験。