逸脱刑事 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は前川裕。

 

殺人事件が20年も発生していない弁天代警察署管内で殺人事件が起こった。ホテルで政治家秘書が滅多刺しにされて殺されたのだ。被害者の田所は右派の衆議院議員の公設秘書で、政治がらみの事件かと思われたが、田所が日常的に買春行為に手を染めていたことが分かり、金銭トラブルという線に落ち着きそうであった。そんな頃、人事交流の名目で警視庁から公安部のキャリア警察官の桐谷杏華が赴任してきた。杏華は持ち前の美貌を駆使して刑事課などから情報収集をしており、一部の刑事の間は殺人事件の裏に隠された政府の暗部に辿り着かないようスパイとして赴任してきたのではないか、と囁かれる。果たしてこの事件の真相はどこにあるのか。

 

歓楽街を擁する弁天代警察署は酔っ払いの対応や万引きが主な業務で、暇な刑事課と比べて生活安全課はとても忙しい。その生安の名物刑事、こだわり無紋こと無紋大介のもとにも杏華はやってくる。気になった事件は徹底的に細部に至るまでこだわる無紋は、この殺人事件に興味を惹かれ、担当外の捜査を始める。

 

もう一人の主人公があらすじに書いた桐谷杏華だ。公安総務課長の浜岡の指示を受けて弁天代署で情報収集をしているが、上司が何の目的を持っているのかは分からない。事件の関係者である黛議員は警察に太いパイプを持っており、彼に不利にならないような情報操作が目的では、と疑っている。

 

そしてこの事件にはタトゥーの謎が隠されている。田所を殺害した女性は後に自殺体で発見されるが、彼女の胸にはタトゥーが彫られていたのだ。そのタトゥーを掘ったのは橋詰という彫り師で、かつて左翼活動家だった男である。秘書の殺人と犯人の自殺、それは果たして本当に自殺だったのか。

 

ちょっとした痴漢事件でも詳細な20枚ほどの論文のような報告書を作成し、課長を驚かせたこだわり無紋。彼が担当外の事件を調べるので逸脱刑事なんだろうが、普段から上層部に逆らって勝手な捜査をする刑事が登場する警察小説ばかりを読んでいるので、思ったほど逸脱していない印象を受けてしまった。


でもストーリーはなかなか面白い。話が進むにつれて右派と左派の争いを思わせるストーリーになったから、政治的闘争かと思っていたら、そこには意外な動機が潜んでいた。秩序を守る公安警察としては当たり前なのかもしれないが、これはちょっと予想出来なかったな。


次は葉真中顕。