食べると死ぬ花 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は芦花公園。

 

義父の義之が死んでからすべてが変わった。夫で長男の雄一が義母の公子を引き取ることになったのだ。良くも悪くも昭和の男だった義之から解放され、公子は嫁の美咲に対して底意地の悪さを発揮し始めた。最近は2歳になるのにまったく意思の疎通が出来ない娘の一花のことが攻撃材料になっている。一花は喃語とは違う不思議な言葉を話し、黙々と絵を描いているだけの子供で、正直美咲ですら持て余している。そんなとき、パートに行く前の喫茶店で美咲はニコという美しい男性と出会う。美咲の愚痴をすべて受け止めてくれるニコに、彼女は少しずつ依存を深めていく。

 

久根ニコラスという美しい男性と馬場家の人々との交流を描いた連作短編集。あらすじは「大歳の棺」より。多大なストレスに晒されている美咲に、ニコはキャリーケースのような棺を送る。頑張っている人には良いことがあるんですよ、との言葉通り棺のおかげでストレス源は減るが、既に家族は壊れていた。

 

あらすじに書いた通り、馬場家の家長の義之は強権的な人物で、家の中で義之と長男の雄一以外は人間として扱われていなかった。長女の桜子、次男の雄二、三男の雄三はそれぞれ鬱屈を抱え、大人になってからも人生は好転しない。そんな彼らの元にも久根ニコラスは現れ、それぞれ贈り物を渡す。

 

何となく笑うセールスマンを彷彿とさせる展開だが、久根ニコラスの名前の由来が明かされたときに合点がいく。聖書の話だったのだな、と。馬場家に1世代に一人生まれる意思の疎通が出来ないミエルの存在など、不気味な要素はワクワクするが、聖書の素養がないため結末はよく分からなかったのが残念。

 

次は櫛木理宇。