山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は鬼田竜次。

 

警視庁公安部に日本刷新党を名乗る団体から闘争宣言書という怪文書が届いた。税金を食いつぶす政治家や官僚に鉄槌を下す、というもので、最大のガンである厚生労働省を直ちに解体しなければ、その関連団体の職員を殺害する、と書かれていた。当初はイタズラだと思われていたが、数日後にライフルを持った党員による立てこもり事件が発生する。SITとSATが現場に急行し、SITの谷垣班長による説得が試みられるが、SATの中田班長は独断で犯人を射殺してしまう。谷垣と中田、対極の思想を持つ二人は日本刷新党による事件にたびたび投入され、そのたびに諍いを起こす。

 

犯罪者には正当な裁きと更生が必要、と考えるSITユニット1の班長である谷垣浩平。合法的に暴れたいだけのSAT制圧一斑の班長、中田数彦。最悪の相性の二人は、なぜか日本刷新党の事件に同時に派遣される。確かに優秀な二人ではあるのだが、上層部はもっと考えて派遣しろ、と言いたい。

 

高校生の頃に腕試しで警察学校に殴り込んだ中田は、生い立ちが不幸とは言え、合法的な制圧、破壊、暴力がなければ生きていけない狂犬で、陰で悪魔と呼ばれている。一方の谷垣は整った容姿と正義感から「王子」と呼ばれているが、中田に激高して彼に銃を向けたりして、中田と大差ない危険人物に思える。


第二回警察小説大賞受賞作で、オチが驚異的ということで読んでみたが、期待したほどではなく、中田や谷垣だけでなく犯人もイマイチ。デビュー作としては悪くないのかも知れないが、もう少し狂気が強めの物語かと思った。わりとすぐキレちゃう谷垣が一番狂ってるように見えるし。


次は中山七里。

 

作者は貫井徳郎。

 

第二次大戦の終盤、北海道に侵攻したソ連は瞬く間に東日本を制圧した。そして戦後、日本は東西に分割され、西には民主主義の大日本国、東には共産主義の日本人民共和国が誕生する。西が急激な経済発展を遂げる一方、東は貧困にあえぎ、1990年に統一されてから現在に至るまで、その貧富の差は変わっていない。裕福な生活をしたければ西日本人になるしかないが、生まれによる差別が存在し、東日本人は非正規雇用として西に搾取されるばかりだ。そんな現状を憂いて東日本にMASAKADOという東独立を目指すテロ組織が設立された。ただの契約社員だった一条昇はその活動に巻き込まれることになる。

 

戦後に東西が分割され、その余波が続いている架空の日本が舞台の小説。東日本でまともな暮らしをしたければ自衛隊に入るしかない、と言われており、一条の父親はその自衛隊員であった。しかし暴力を嫌う彼は自衛隊に入ることを拒み、引っ越し会社の平凡な非正規雇用として暮らしている。

 

その一条は同僚の堀越聖子から東日本の貧困についてのセミナーに誘われ、不運が重なってテロ組織の一員にさせられてしまう。本人も貧困を何とかしたいと考えていたとはいえ、ちょっと酷い話である。組織内では穏健派の一員となったが、いいように扱われているようにしか見えない。

 

一方、同じく自衛隊員の父を持ち、子供のころに一条と友人だった辺見公佑は自衛隊員となり、特務連隊としてテロ組織を追う立場になる。自衛隊員として東日本に赴任している辺見は、いまでも一条と交流があり、急に一条がテロ組織に加入したことに驚く。それでも任務として組織を監視しなければならない。

 

架空の日本が舞台だが、描かれる問題は広がる格差社会とそれに関する国民の無関心という現実と符合するものだ。読み手は一条の立場でそれに悩み、解決策を模索する。その煩悶する過程でさすがに冗長で、もう少し小説としての面白さを加えてもらえたら良かったかな。解決策としては面白いんだけど。

 

次は鬼田隆治。

作者は澤村伊智。

 

料理教室の羽仁孝夫先生が行方不明になり、彼に世話になったという料理研究家の辻村ゆかりが代理として講師を務めることになった。羽仁の娘でアシスタントの鈴菜が尊敬している人物だ。うるさ型の生徒との間でひと悶着あったものの、辻村が教える料理は素晴らしく、教室が終わってからは和やかな懇談となった。そこで生徒たちは羽仁が行方不明になる前に出会った不思議な出来事について語り始める。真っ黒で棒のように痩せた人物の存在。羽仁によるとそれは人をさらう「すみせご」というおばけらしく、科rはその存在に怯え始める。

 

比嘉姉妹シリーズとそれに関連する人々が登場する短編集。あらすじは表題作の「すみせごの贄」より。比嘉姉妹も野崎も一切登場せず、ずうのめ人形などに登場した辻村ゆかりとその不気味な推理が描かれる。他の短編集でもメインを張ったことがあるし、作者のお気に入りキャラなのかな。

 

「戸栗魅姫の仕事」ではインチキ霊能者の戸栗魅姫と珠美という少女が旅館の中で半日ほど行方不明になる。窓や戸は開かず、破壊することも出来ない。そこに黒手袋の女が現れた。インチキ霊能者でも役に立てる、彼女なりの仕事がある、みたいな話は好き。凡人でも活躍出来るんだ、みたいな。

 

どの作品も面白かったが、いい加減時系列がよく分からなくなって来ている。本作に収められている作品も時間軸には結構幅があるようだ。ファンサイトで長編、短編を時系列にまとめたものがあるので、いつかそれに沿って読んでいけば流れが把握できるのだろうか。いきなり真琴の死の気配とか漂わされても困っちゃうよ。

 

次は貫井徳郎。