山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は堂場瞬一。

 

過去の未解決事件を追う連載記事「真実の幻影」はとあるタレコミ電話がきっかけで始まった。東日新聞社会部の高岡拓也が泊まり勤務をしていた際、40年前の殺人事件の情報提供の電話があったのだ。情報提供者は不明のままだった被害者の身元を知っており、さらに犯人と思しき人物の名前にも言及した。社会部長の富永の勧めもあり、高岡はそのまま取材を続け連載記事を書くことになったのだ。殺人事件について10回の連載を終え、次のテーマとなるのは30年前の誘拐事件、浜島里香ちゃん誘拐事件である。高岡は助手の若手記者である嶋とともに、事件が起きた群馬県前橋市へと向かった。

かつては「事件の東日」と呼ばれ事件取材に強かった東日新聞だが、令和の今では事件記事は人気が無く、ネット版でもページビューを稼げるのは芸能関係やスポーツ関係の記事ばかりだ。高岡は東日に入ってから約20年、事件取材を続けてきたベテラン記者で、将来は未解決事件の本を出したいと思っている。

そんな高岡がタレコミ電話を受けたのは幸運だった。社会部長の富永もかつては事件取材に注力しており、高岡が未解決事件を取材したいと言っていたのを覚えていて、連載にしようと背中を押してくれた。そんな経緯で「真実の幻影」は始まったのだ。

順調に進んだ1回目とは違い、2回目では子供の誘拐事件、しかも身代金は取られて人質が返らない、という警察の完全敗北であり関係者の口は重い。この取材に積極的だった相棒で若手の嶋は急に及び腰になり、高岡と揉めて東京へと帰ってしまう。さらに高岡らを狙う何者かの襲撃も発生。

 

単純な身代金目当ての誘拐だと思ったら、もっと深い謎が隠されていた。取材は途切れず進むものの、進んでいるだけで真相に近づけている雰囲気は無く隔靴掻痒と行った感じだが、それだけに真相が見えてきてからが盛り上がる。公安まで出てくるのはやりすぎにも思えたが、ちゃんと筋は通っているんだよな。

 

次は薬丸岳。

作者は中山七里。

 

東京地裁の法廷、判決を告げる判事の檜葉の声にはさすがに力が無い、と左陪審の高円寺円は感じていた。今回の事件は息子が両親を殺害した、というもので、事件の記録だけでなく精神鑑定の書類までも読み込む必要があり、さすがの若い円も疲れを感じていた。伝説の裁判官だった祖母の後を継ぐような形で裁判官になったが、それは想像以上の激務であった。法律の知識だけでなく、多岐にわたる事件の専門書まで目を通して判決を下す必要があるのだ。亡くなった祖母に背中を押されるように判決文を書いていた円は、ふとニュースに目を止めた。エストニアという国で裁判にAIが活用され始めたというのだ。その数日後、中国から技術共有という形で日本にAI裁判官がやってきた。

 

警視庁捜査一課の葛城の恋人にして、女性判事として長年活躍した高円寺静の孫である円。彼女を主役にした新シリーズの始まりである。デジタル技術を駆使し、様々な公共の手続きがオンラインで可能な「電子政府」で有名なエストニア。そこにはロボット裁判官というシステムがあるという。

 

そんなニュースの数日後、日本にもAI裁判官がやってくる。過去の判例を読み込ませることで、その裁判官の倫理観や傾向を学習し、あたかもその人物のような判決文が出力される。資料集めなどの事務処理能力も優れており、試験導入ながらも判事や事務官たちからも評判は上々だった。

 

しかし円は機械に判断を任せることに不安を覚えていた。重要な判決であればあるほど裁判官は苦悩しながら判決文を書き上げる。AIであればものの数秒で判決が下されるが、人間が悩む過程こそが大事なのではないか。そんな折、息子が父親を滅多刺しにして殺害する事件が起こる。

 

AIを通して裁判官の職業倫理が問われる作品。思い悩む円にとって葛城は一服の清涼剤のような存在で、普段の刑事小説ではちょっと頼りない葛城だが、立派に円を支えているようだ。次は「被告人AI」という作品も発売されており、新しいシリーズがどう展開していくか楽しみだ。

 

次は堂場瞬一。

作者は樋口毅宏。

 

沖縄の米軍基地、フェンスの前に立つ警護の機動隊員に向かってシュプレヒコールを繰り返すデモ隊の人々。中野正彦と相棒の毛利はそれを見つめていた。この中に反対運動のリーダーである稲垣がいる。二人は会長からのゴーサインを待ち、稲垣が宿泊している宿に押し入り、稲垣を殺害して逃亡した。すべては敬愛する会長と、そして安部晋三お父様のためだ。普段はピザ屋でアルバイトをしている中野だが、それは仮の姿に過ぎない。今回のように国に混乱をもたらす非国民に仲裁を加える愛国者、それが本当の姿だ。これは中野が秘密裏につけていた彼の行動日記である。

 

久々に読む樋口さん。実在の事件やニュースに対して、「愛国者」である中野が感じたことを書いた日記という形で描写されている。中野は典型的な「愛国者」で、要はネトウヨである。安倍晋三首相を敬愛しており、自分が彼の息子だったらどんなに良いだろう、と妄想し密かにお父様と呼んでいる。

 

中野は差別上等、男尊女卑上等、戦争上等、といろいろ鼻息が荒い一方で、日常生活ではバイト先に溶け込めていない等ストレスが多く、不満を愛国心に変えて発散しているようだ。タイトルにある通り、彼はまだ昭和の価値観に縛られており、典型的なネトウヨであると言えよう。

 

沖縄での作戦以降、鬱屈した生活を送っていた中野だが、ついに会長から新たな指令が下された。それは彼の考えを根底から覆すようなとんでもない作戦であったが、中野はそこに向けて鍛錬を続けていく。そして迎えた決行当日、誰もが予想していながらも目を逸らしていた事がついに起きた。

 

終盤がとんでもない事になっている。しかし非常に樋口さんらしい作品と言えよう。そして中野は自分が望んでいた世界が訪れたにも関わらず、それを受け入れきれないでいた。思ってたのと違う!とはまさにこの事だろう。面白かったと言うのが何か悔しいけど、面白いんだよなあ。

 

次は中山七里。