1歳児たちに教えてもらった大切なこと | やまびこDr.の診療日記

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でも正確な情報を知り納得できれば心配は減らす事が可能です。
薬よりもっと大切な事をお伝えする小児科医のブログです。

先日、たまに行く乳幼児健診(1歳半)に出かけてきました。

 

この2年ほどある騒動により、人数制限をしたり一人診察が終わる毎に椅子からベッドからそこら中をアルコール消毒しまくるスタイルが続いています。

 

保健師さんにより対応が多少違うのですが、その中でも特にやる気に満ちた保健師さんがその日の担当になり、いつにも増して水面下での静かな激しい攻防が繰り広げられました(?)。

 

会場に着くと、その保健師さんから「フェイスガード(透明なお面)しますか?」と聞かれ、僕は(いつも通り)「いや要りません」と答えます。

 

部屋の窓は5cmほど空けられ、冷風が吹き込んでくるので窓を閉めると、それに気づいた保健師さんが何気なく空けて新鮮な冷気を部屋に導き入れます。

 

子供とお母さんたちの健康を守る保健師として、専門知識とプライドを胸に仕事を遂行しているのは称賛すべき事なのですが、しかしいかんせんその手段は、僕の考えのものと対極にあるので、僕にとってはとても苦しくつらい時間を過ごすことになります。

 

それはその保健師さんも同じことです。

言うことを聞かない医者が担当なので当然です。

 

僕は乳幼児健診というもの自体、お母さんたちの子育てを手助けするものではなくなっている気がしているため、保健師さんからみたらとても「いい加減な診察」になっていると思います。

 

身長や体重がある程度多くても少なくても、その子から違和感を感じなければ「大丈夫ですよ」とお母さんたちに伝え、発達が遅れ気味でもお母さんたちが心配していなければ「大丈夫ですよ」と伝えたりしています(誤解を与える表現ですが詳細を伝えきれないのですみません)。

 

それが今日気に入らなかったのか、ある子の診察の後に「ちゃんと見てくださいね」的なことを言われました・・・

 

それを言われた時に湧いてきた感情は・・・怒りと悲しみと悔しさでした・・・

 

それは、上から目線の発言をされた屈辱感でもあり、自分の(その方がお母さんのためという)想いを否定されたという悲哀感でもあり、さまざまな感情の入り混じった「想い」でした。

 

その後窓の外の雲を眺めながら、待合室で泣き叫んでいる1歳半児たちの声を聞いていたら、「ああ、今自分が感じている想いは、この子達と同じ想いなんだ・・・」とふと気づきました。

 

乳幼児健診の中でも、1歳半の子たちが一番泣きます。

 

4ヶ月ぐらいだと何も分からないまま診察を受けますし、3歳になるとちゃんと理解して診察を受けることができるので泣くことは余りありません。

 

1歳半は、ある程度の理解はできますがある程度しかできないので、知らない場所に連れてこられて知らない人に身長や体重を測られたり診察されたり、自分の意思を無視して色々されるのがとても不快に感じるはずです。

 

ほとんどの子は手で払い除けたりして抵抗するのですが、大人が手を持ち阻止するため、泣いて想いを表現するしかないのです。

 

自分の想いをちゃんと行動で示しているのに、知らない大人たちが妙な笑顔で、しかも力づくで否定してくるわけです。

 

とても屈辱的で怖くて悲しい体験だと思います。

 

小児科医になり25年以上経ちますが、数えきれない程の点滴・採血・注射・その他処置を子供達にしてきました。

 

医療上絶対必要で絶対正しいことなので、子供たちがどんなに泣き叫ぼうとも、大人たち数人で押さえつけて処置をするのが絶対正しいことだと思ってやってきました。

 

でもそれは、やはり絶対正しいことじゃなかったんだと、今日改めて気付かされました。

 

1歳半健診は、軽度の脳性麻痺を発見するという大切な意味があるので全否定するわけではないのですが、特に心配もしていなかった発達や発育について色々言われ、お母さんたちをかえって不安にさせてしまう事も多いのです。

 

 

人により持っている「想い」はそれぞれ違います。

多様性を認め合う社会とは程遠い現状において、それぞれの「正しさ」がぶつかり、それが戦いを生み出しています。

 

戦いにならない様に何とか折り合いをつけるには、それぞれが自分たちの「正しさ」の一部を無理やりねじ曲げて「我慢」する必要があります。

 

「我慢」とは自分のやりたいことをやらないか、やりたくないことを無理にやるかのどちらかですが、それがストレスとなり全てを悪化させていきます。

 

先日の健診の会場には、「子供たちの想い」「お母さんたちの想い」「保健師さんたちの想い」「言うこと聞かない小児科医の想い」の大雑把に分けて4種類の「想い」がぶつかり合っていました。

 

全員がストレスを抱え、心身ともに削られていました。

 

「何してんだろ・・・??」

 

今回の茶番が早く終わって欲しいと願ってやみませんが、でもこの茶番が終わっても根本が変わらなければ、生きづらい世の中というのは変わらないと思います。

 

だったらどうするか?

 

その答えは「周りの人や社会のシステムがどうであれ、とにかく自分が自分らしくいること」だと、再認識しました。

 

という訳で、嫌々行っていた健診は来月で卒業とします(半年前に市には伝えてあります)。

 

そして、やはり思い切って大胆に色々変えます。

さすれば、全てがいい方向にいくであろうぞ~!

 

それが、先日健診で子供たちに教えてもらった大切なことでした。