小説 “ことり”小川洋子 | やまちゃん1のブログ

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『春の東雲のふるえる薄明に、小鳥が木の間で、わけのありそうな調子でささやいている時、諸君は彼らがそのつれあいに花のことを語っているのだと感じたことはありませんか。』岡倉覚三(天心) 茶の本 花より


(ネット画像借用)

岡倉天心の詩情あふれる名文です。最新の研究(京都大学、鈴木俊貴助教)によると、実際にシジュウカラが単語を話し、文法も操っている事が証明されています。



『人間の言葉は話せないけれど、ことりのさえずりを理解する兄と、兄の言葉を唯一わかる弟。二人は支えあってひっそりと生きていく。やがて兄は亡くなり、弟は「小鳥の小父さん」と人々に呼ばれて…』背表紙より



小川洋子の“ことり”は、小鳥の世界と兄弟の世界が交わる境界を描いています。
そこは、小鳥と兄弟の小さく、閉じられた空間ですが、作者は観察者の目で、博物画のように静謐な世界を描きます。


“小鳥の小父さん”と図書館司書の出会いは、恋するもならば誰しも思いあたる、相手のちょっとした言葉や態度を、自分にむけた意味あるサインだと妄想するエピソード。バラ園でのデートを美しく、ちょっと残酷に語る。

兄弟と小鳥のユートピア的世界は、兄の死、弟の失恋で次第に現実に侵食されて行く。


「鳥獣保護法」の改正により、“一切の野鳥の捕獲、飼育を禁止する” ことになったが、その背景には、賭博性がある「メジロの鳴き合わせ」がある。よく鳴くメジロは捕えられ、高値で売買される。


 
“小鳥の小父さん”は囚えられた小鳥を助けなくてはならない…


“ことり”誕生の背景には大江健三郎のご子息大江光氏の存在があったのではないか。
大江健三郎逝去で思い出しました。
小説「個人的な体験」は知的障害のある息子の存在をテーマにしている。

『大江健三郎の息子さんで、作曲家の大江光さんは脳に障害を持って生まれ、幼児期には言葉をほとんど話さなかったが、音の記憶に関しては並はずれた能力を持っていたという。CDに録音された野鳥の声をみんな覚えてしまったそうだ。あるとき、父は軽井沢で6歳の息子が「クイナ、です」と言うのを聞いて驚いた。それが光さんが生まれて初めて発した言葉だったからだ。』ネット記事引用




★★★★☆

小鳥たちの会話に耳を
澄ませてみましょう



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