業平の従者、憲明(のりあきら)は、高子姫との危険な文のやり取りに、それとなく逆らっていたが、いまでは致し方なしと、高子姫の女房近江の方と通じて、逢瀬を段取りするようになっていました。
やがては入内する高貴な姫君との悲恋。それを仲介する双方の従者というシチュエーションは、現代の小説の筋書にもみられます。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200627/18/yama-chan1/a8/7a/j/o1080081014780576424.jpg?caw=800)
三島由紀夫 豊饒の海 第1巻 春の雪
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200627/18/yama-chan1/da/ef/j/o0300020014780576425.jpg?caw=800)
行定勲監督 妻夫木聡 竹内結子
2005年
吉永小百合と市川海老蔵(先代)の
TVドラマもありました
三島由紀夫の「豊饒の海」は、「浜松中納言物語」を土台に作られたと筆者が語っています。「浜松中納言物語」は、輪廻転生の物語ですが、「源氏物語」に影響を受けいると言われています。源氏のモデルが業平(あるいは源融)だったことを考えると、伊勢物語から豊饒の海まで、連綿と続く恋の物語の類型が見えます
。
業平と憲明、高子姫と近江の方は、「春の雪」の清顕と書生の飯沼、聡子と侍女の蓼科で、逢瀬の舞台回し
の重要な役どころですね。
本題に戻ります。
憲明と近江の方の尽力もあり、高子姫の母、五条の后邸で逢瀬を重ねる業平と高子姫でしたが、やがて兄基経の知るところとなり、藤原家の掌中の玉である高子姫は、連れ去られて、内裏に入れられてしまいました。
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内裏の図 高子姫が居るのは後涼殿
文のやり取りだけでも危険で険しい高子姫が住むのは、帝がおられる内裏。
しかし、希代の好き者業平は挑みます。
後涼殿のひさしまでは、忍びいりますが、なかなか共寝までには至りません。
ある朧月夜、いつものように後涼殿の庭に忍んでいた業平、すのこにぼうとした影が近づいてきます。小袿(こうちぎ)の赤の下に蘇芳(すおう)の色らしき袖口。
衣の青色や赤色は高貴な方のみが着ることの出来る金色。高子姫に間違いありません。
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小袿 お人形ネット借用しました
業平「今宵は近江の方は」
高子「酒を召されて、このような夜は、どのお方も月の翳りをまとい、天上にまで辿り着きたく・・」
業平「今宵こそ、かねての約束を」
「かねての約束とは、はて・・」
約束など無いのですが、ここは嘯く(うそぶく)のも心の綾。
業平「覚えておられるはず、春のおぼろな宵に、梅の香の中にて」
「梅の香の中にて、まるで思い至りませぬが」
それ以上何も申さず、姫君も訊ねず、業平は姫の長い髪を地面に落とさぬように抱き上げて、そのままひさしの中へと入ります。
半ば脱がされような空蝉のような衣の赤。業平、その色を組み敷き、溺れ、ついに共寝を為し遂げました。
都人の口の端ほど恐ろしいものはなく、業平の訪れを、帝がお知りになられたらしい。
五条の后(高子姫の母)も、致し方なく、邸内の塗籠(ぬりごめ)に高子姫を閉じ込めました。
業平と高子姫は、出奔を決意します。
業平と高子姫の逃避行は、雨の中、桂から長岡へ、旅の仕度を整えて、芦屋の所領まで行く予定。
長岡の邸で眠った。
雨が強くならないうちに難所である芥川を越えたい。
業平は高子姫を抱いて馬に乗せます。
大雨のなか稲光も走り、高子姫の体も冷えて震えています。
馬が立ち往生し、業平は姫を馬から下ろし、姫を幼子のようにおんぶします。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200627/18/yama-chan1/6d/b2/j/o0457052014780576429.jpg?caw=800)
俵屋宗達 芥川
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200627/18/yama-chan1/c3/a2/j/o0660049914780576432.jpg?caw=800)
月岡芳年 在原業平と二条后
ここで有名な、草の露を見た高子姫が業平に、
「あの白い玉は何ぞ」と問、業平は「あれは、はかなきもの、朝は在るが昼には消える、消えると知りても美しい」と答えます。
業平は雨をしのぐため姫を、近くの無人のあばらな倉に避難させます。
後に続いてるはずの憲明に居所を知らせるため、業平は倉の外に出て、弓をひたすら鳴らします。
近くに蹄の音が聞こえました。
倉の奥から、「ああ」と声があがり、姫の元に駆け寄りますが、すでに姫の姿はありません。
足元の装束用の浅沓から、姫は兄の藤原基経に取り返されたと知りました。
その後、高子姫は25才で、後の清和帝(17才)に入内されました。
時は流れ、高子皇后が主宰する歌会に招かれました。
歌会は大原野の紅葉がテーマです。
さまざまな歌が披露され、最後に業平の歌となりました。高子皇后の意向のようです。
「ちはやぶる神代も聞かず竜田川
唐紅に水くくるとは」
業平は、叶うことのなかった恋情を、高子皇后が望む和歌の世界の為に尽くすことを決意しました。
年老いた業平は伊勢(恬子斎宮の女房)と昔話をしています。恋について問われると、
「男の恋は二つの方向へ向かうもの、叶わぬ高めの御方への憧れと、弱き御方を父か兄のようにお護りしたい恋といずれも叶うこと難く、ゆえに飽くこともなし」と高子姫と恬子斎宮との恋を懐かしむように語ります。
そうして、業平は旅だったのでした。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200627/18/yama-chan1/ac/73/j/o0207035014780576434.jpg?caw=800)
英一蝶 見立業平涅槃図
辞世の歌は、
「ついに行く道とはかねて聞きしかど
昨日今日とは思わざりを」
完
馬が立ち往生し、業平は姫を馬から下ろし、姫を幼子のようにおんぶします。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200627/18/yama-chan1/6d/b2/j/o0457052014780576429.jpg?caw=800)
俵屋宗達 芥川
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200627/18/yama-chan1/c3/a2/j/o0660049914780576432.jpg?caw=800)
月岡芳年 在原業平と二条后
ここで有名な、草の露を見た高子姫が業平に、
「あの白い玉は何ぞ」と問、業平は「あれは、はかなきもの、朝は在るが昼には消える、消えると知りても美しい」と答えます。
業平は雨をしのぐため姫を、近くの無人のあばらな倉に避難させます。
後に続いてるはずの憲明に居所を知らせるため、業平は倉の外に出て、弓をひたすら鳴らします。
近くに蹄の音が聞こえました。
倉の奥から、「ああ」と声があがり、姫の元に駆け寄りますが、すでに姫の姿はありません。
足元の装束用の浅沓から、姫は兄の藤原基経に取り返されたと知りました。
その後、高子姫は25才で、後の清和帝(17才)に入内されました。
時は流れ、高子皇后が主宰する歌会に招かれました。
歌会は大原野の紅葉がテーマです。
さまざまな歌が披露され、最後に業平の歌となりました。高子皇后の意向のようです。
「ちはやぶる神代も聞かず竜田川
唐紅に水くくるとは」
業平は、叶うことのなかった恋情を、高子皇后が望む和歌の世界の為に尽くすことを決意しました。
年老いた業平は伊勢(恬子斎宮の女房)と昔話をしています。恋について問われると、
「男の恋は二つの方向へ向かうもの、叶わぬ高めの御方への憧れと、弱き御方を父か兄のようにお護りしたい恋といずれも叶うこと難く、ゆえに飽くこともなし」と高子姫と恬子斎宮との恋を懐かしむように語ります。
そうして、業平は旅だったのでした。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20200627/18/yama-chan1/ac/73/j/o0207035014780576434.jpg?caw=800)
英一蝶 見立業平涅槃図
辞世の歌は、
「ついに行く道とはかねて聞きしかど
昨日今日とは思わざりを」
完