高子姫との逃避行に失敗した業平は、身を隠すように東国に下ります。同行は、住持覚行、部下の憲明、元親ら数名です。
東海道を下り尾張から三河に入りました。郡司の館で夜話となります。
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こんな話があると業平が語ります。
幼いときから井筒(井戸)をのぞいて、将来を誓いあった二人がいました。
「筒井つ井筒にかけしまろがたけ
過ぎにけらしな妹見ざるまに」
背丈がこの井筒(井戸)の囲いを越えたら結婚しようと願掛けてきました。会わないうちに、すっかり高さを越えてしまいました。
「比べ来しふりわけ髪も肩過ぎぬ
君ならずして誰かあぐべき」
あなたと髪のながさを比べた振り分け髪も肩を過ぎました。他の誰のために髪上をするんでしょう。
と幼ない恋のまま二人は結ばれました。
このエピソードって、吉田拓郎の「結婚しようよ」
![るんるん](https://img.mixi.net/img/emoji/72.gif)
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数年が経ち、男に新たに通う女ができますが、妻は男の行いを責めず、心を込めて見送ります。男は浮気か?と不審に思い、出かけるふりで庭の植え込みの陰に身を隠していると、妻は、女のもとへ行くと知りながら、夫の身を案じる歌を詠みます。男は妻を哀れに思い、新たな女とは別れます。
話を聴いていた元親が、「女の心は、執心が顕れぬ加減にて、心染むものとなりましょう。色も重ねれば黒く重とうなります。幼き頃より知りたる妻こそ、執心はあれどそれが顕れぬ程にて、思いやる歌にしたのでは。もしや植え込みの陰にて、耳そばだてる夫のこと、気付いておりましたのでは」
憲明は、「この話し、どこかで聞いたことがございますが、もしや業平殿ご自身の懺悔では・・」
業平、わずかに頬を暖めただけで、何も申しません。
まさに『「いき」の構造』にいう『色に染みつつ色に泥(なず)まない。「いき」は色っぽい肯定のうちに黒ずんだ否定を隠している。』ですね。
女性の芯には、平安の雅から江戸の「いき」まで変わらぬものがあるんですね。
筒井は、世阿弥によって「能」の名作になっています。幼き日の筒井を語る女の霊が舞ます。ストーリーには、同じ伊勢物語の「梓弓」もオーバーラップします。
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絵が美しい
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一行は、川の流れに八つの橋がかかる、杜若が群れ咲く三河「八橋」に着きました。ここで、業平は有名なかきつばたの歌を詠みます。
「から衣きつつなれにしつましあれば
はるばる来ぬる旅をしぞ思う」
歌に、か、き、つ、は、た、がさらりと読み込まれています。
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尾形光琳 八橋蒔絵螺鈿硯箱 本阿弥光悦の硯箱と比べると面白い
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更に東に向かい駿河の国に入ると、蔦かずらに空を覆われた峠道。
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