恋愛指南書 伊勢物語 その二 | やまちゃん1のブログ

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伊勢物語のメインエピソードは、高子(たかいこ)姫と恬子(やすこ)内親王との恋です。どちらも、入内裏した姫と神に仕える斎宮という、業平にとって禁じられた、手を出してはいけない恋です。二人との恋の前に、源氏でいう「雨夜の品定め」的サブストーリーをお話ししましょう。


高子姫との逃避行に失敗した業平は、身を隠すように東国に下ります。同行は、住持覚行、部下の憲明、元親ら数名です。

東海道を下り尾張から三河に入りました。郡司の館で夜話となります。



月岡雪鼎 筒井 肉筆春画で高名な雪鼎ですが、狩野派の流れが岩の造形に表れています。色彩はやまと絵ですね。


こんな話があると業平が語ります。
幼いときから井筒(井戸)をのぞいて、将来を誓いあった二人がいました。

「筒井つ井筒にかけしまろがたけ
過ぎにけらしな妹見ざるまに」

背丈がこの井筒(井戸)の囲いを越えたら結婚しようと願掛けてきました。会わないうちに、すっかり高さを越えてしまいました。

「比べ来しふりわけ髪も肩過ぎぬ
君ならずして誰かあぐべき」

あなたと髪のながさを比べた振り分け髪も肩を過ぎました。他の誰のために髪上をするんでしょう。
と幼ない恋のまま二人は結ばれました。

このエピソードって、吉田拓郎の「結婚しようよ」るんるんですね。『僕の髪が肩までのびて 君と同じになったら 約束通り街の教会で結婚しようよるんるん

数年が経ち、男に新たに通う女ができますが、妻は男の行いを責めず、心を込めて見送ります。男は浮気か?と不審に思い、出かけるふりで庭の植え込みの陰に身を隠していると、妻は、女のもとへ行くと知りながら、夫の身を案じる歌を詠みます。男は妻を哀れに思い、新たな女とは別れます。

話を聴いていた元親が、「女の心は、執心が顕れぬ加減にて、心染むものとなりましょう。色も重ねれば黒く重とうなります。幼き頃より知りたる妻こそ、執心はあれどそれが顕れぬ程にて、思いやる歌にしたのでは。もしや植え込みの陰にて、耳そばだてる夫のこと、気付いておりましたのでは」

憲明は、「この話し、どこかで聞いたことがございますが、もしや業平殿ご自身の懺悔では・・」

業平、わずかに頬を暖めただけで、何も申しません。

まさに『「いき」の構造』にいう『色に染みつつ色に泥(なず)まない。「いき」は色っぽい肯定のうちに黒ずんだ否定を隠している。』ですね。
女性の芯には、平安の雅から江戸の「いき」まで変わらぬものがあるんですね。


筒井は、世阿弥によって「能」の名作になっています。幼き日の筒井を語る女の霊が舞ます。ストーリーには、同じ伊勢物語の「梓弓」もオーバーラップします。



井筒図 女(霊)が業平(男)の着物を着る序の舞
絵が美しい
 



岩佐又兵衛 梓弓図 妻を残し三年ぶりに都から帰る男 精密な筆が見所 足の配置がへん?日本画ではよく有ります



一行は、川の流れに八つの橋がかかる、杜若が群れ咲く三河「八橋」に着きました。ここで、業平は有名なかきつばたの歌を詠みます。

「から衣きつつなれにしつましあれば
はるばる来ぬる旅をしぞ思う」

歌に、か、き、つ、は、た、がさらりと読み込まれています。




鈴木春信 八橋 春信らしく可愛らしいですね



尾形光琳 八橋蒔絵螺鈿硯箱 本阿弥光悦の硯箱と比べると面白い



尾形光琳 八橋図屏風(部分) 橋が無いのが「燕子花図屏風」



更に東に向かい駿河の国に入ると、蔦かずらに空を覆われた峠道。



俵屋宗達 蔦の細道図屏風 
 賛は烏丸光弘  抽象的ともいえる大胆な構図



宇津の山を越えれば、富士の山がそびえています。



鈴木其一 東下り 富士山ですスッキリ


「時知らぬ山は富士の嶺(ね)いつとてか
鹿の子まだらに雪の降るらん」


続く


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