遺産分割協議において、遺産の総額について十分な情報が与えられていなかったことから錯誤に陥っており、その錯誤に基づいて意思表示をした場合には、遺産分割協議は民法95条本文により無効となり得ます。
錯誤無効が肯定され、または肯定され得ると判断された3つの裁判例があります。
広島高裁松江支部判決平成2年9月25日
東京地判平11年1月22日
東京地判平22年9月14日
これらの錯誤はいずれも動機の錯誤の範疇に属するものですが、「他の相続人らから説明された不十分または誤った情報が、そのまま動機の錯誤の内容となっている以上、表意者である相続人の動機は相手方である相続人にも表示されているといえ、錯誤無効の対象となり得ると考えられます。
ただし、表意者である相続人に錯誤に陥ったことについて重過失がある場合には、意思表示が無効となりません(民法95条但し書き)。
判例では、「遺産である不動産の相続税評価額を時価であると誤信したというものであり、また、実際の時価を知り得る機会がいくらでもあった」ことで重過失が認められています。