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しろやぎくろやぎ、本を読む。

シロヤギとクロヤギによる、徒然気まぐれ偏りぎみ読書日記

しろやぎです。

夏なのでホラーの話でも。

ホラーってなんでしょう。
ホラーなのだから、怖い。少なくとも怖がらせようとしているものだろうと思います。

ところで、ダークファンタジーというのがあります。これは若干曖昧ですが、ファンタジーの中でも暗い雰囲気でときにはホラー風味だったり、主人公がいわゆる負の力を持っていたり、展開が不吉だったり、そういうことなのでしょう。

「ホラー映画」を検索してみると、『エクソシスト』『リング』『ソウ』『サイコ』『ゾンビ』『シャイニング』『悪魔のいけにえ』……そうそうたるタイトルです。
(比較的)最近見てわりと怖かったのは、『イット・フォローズ』。あと、『ドント・ブリーズ』。
スプラッターやグロいのはあんまり見ないです。

一方、ダークファンタジー映画で検索してみると、しろやぎが見た作品では『パンズ・ラビリンス』やら『デビルズ・バックボーン』、『シザーハンズ』なんてのもありました。「ホラー」で上がってくるものと比べるとわりと新しい作品です。
乱暴に言うと、ギレルモ・デル・トロやティム・バートンの世界のようですね。白塗りのジョニー・デップとか。
『スリーピー・ホロウ』はホラー寄りかなぁとも思いますが……うーん、何にせよけっこう好きなジャンルです。

遠回りしました。

ではホラー小説って何か。
Wikipedia先生によると、
「ホラー小説(ホラーしょうせつ)は、恐怖を主題として、読者に恐怖感を与えるため(恐がらせるため)に書かれた小説。」
なるほど、簡潔です。私が想像していたのとあんまり違ってないです。

私が思い浮かべるホラー小説といえば……『ドラキュラ伯爵』かな。あとはラブクラフト作品。
あとは、スティーブン・キング作品とかなのかな?
日本人作家のはあまり読みませんが、貴志祐介や津原泰水はちょっと読んだかな。湿度があんまり高いもの、肉肉してるのは苦手です。小林泰三とか平山夢明とかはちょっと苦手。面白いんですけど。アンソロジーに入ってれば読みますが、よっぽどすごいテンションのときでないと買わない。

で、今回読んだ本。

『死と呪いの島で、僕らは』

 

タイトルにしても表紙にしてもあんまりホラー小説ぽくはありません。
ホラーレーベルから出ているので、ホラーなんだろうとわかりますが、このレーベルでなかったら、ホラーと認識せず手に取ることもなかったと思います。
なおこのタイトルは改題後のもので、もとはもっとホラーホラーしていたようです。

内容はAmazon先生に聞いていただくとして。

島。(閉鎖的。しかし東京)
美少女。(巫女。かつ不吉と避けられている。島民から口をきいてもらえないというすごい差別を受けている)
沈没船の漂着。
死者が甦る。

謎の古文書。

なぜか自分にだけ秘密を話してくれない父ちゃんと兄ちゃん。

預言。

オカルティズム(もうこれも、「オカルト」でまっさきに思い浮かぶようなもの)。

そのうえ、XXXXX……

そして、青春

後半になって出て来るキーワードもあるのでそのへんは書きませんが、ちょっと詰め込み過ぎじゃないかと思うぐらいサービス満点の展開です。

ぱらっと最初の数ページを見ていいな、と思って買いました。
おまけのブックカバーに釣られたわけではありません。もうなくなっててもらえなかったけど、ちっとも悔しくなんかないんだぞ。つーか終わったんならポスター降ろしとけよ。ちぇっ。

で。

ものすごく怖い思いがしたい、理解できないものにゾッとしたい、という方には物足りないことでしょう。怪談のような後味もありません。

私はちっとも怖いとは思いませんでした。
著者本人が、きっちり結末を付けたいという意思のもとに書いたらしいので、当然といえば当然。

ホラー的要素は継ぎ穂されながら続いていく感じで(良くも悪くもエピソードが継ぎ足されていく印象です。思い切り盛られますが全部畳まれますから、それはすごい)、軸は青春小説。

好きな子と一緒に修学旅行に行きたい(小説の始まり時点で杜弥が椰々子を好きなのかどうかは不明ですが)。
そこからてんやわんやで事件が起こり、そんなことはすっかり忘れ去られます。
でも、ずっとあるのは、杜弥が椰々子を助けたい、という気持ち。
椰々子のほうも、いつのまにか杜弥がいると心強い……と思っている。
ここまでスッキリしているともう爽やかの一言です。

しかし、継ぎ足されていくホラー的要素が非常にホラー的なので、怖くないけれどもホラー小説を読んだなぁという感覚はそれなりにありました。
島の風景描写がとてもしっかりしているので、かえって後の方の展開が浮いたようにも思いますが、それは仕方がないかな。

 

それより何より、杜弥(←めちゃくちゃいい子)と椰々子のストーリーが爽やかで、あまりにも美しいおしまいにもひんやりした気分にならず済みました。

……歳を取っただけかもしれませんね。

理不尽に立ち向かうという意味においては、呪いも差別も同じ。

好きな子のためにそれができる若さが清々しい。

(ちょっとネタバレのため反転)実はこの島の呪い、解決されたわけではなくてこれからも続いていくことが示唆されています。

しかしそんなことどうでもいい!


というわけで、たいへん爽やかなホラー小説という不思議なものを読めました。

 

 

せっかくなので映画もご紹介。

 

しむら、うしろーっ

とよく紹介されてましたが、まさにそんな感じ(ほんと??)

いつのまにか後ろにいる「それ」。怖かったー。

 

スペイン内戦の頃のお話。

悲しく美しく。すばらしい。

 クロヤギです。

 

 すっかり夏本番ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 私はひたすらビール飲んでます。暑くても食欲が減らないうえ、ビールの消費量が増えるタチなんで、夏は大変です(財布も体重も)。しょっぱいおつまみもいいですけど、胡瓜にテンメンジャン(中華料理の調味料の一種。甘い味噌)つけてもいけますよね。ぽりぽり。

 

 さて、今日紹介する本がそんな夏にぴったり……なのかどうか。文庫化する前は『インディアン・サマー騒動記』というタイトルの単行本として世に出たというし、短編の半分は夏が舞台だし、ちょっとぞっとするところがあるし、そう言っていいかなぁ。

 いや、夏にあうかどうかより、私は面白かったけど誰も彼もにおすすめしていいのかなって思っちゃう連作ミステリ短編集、沢村浩輔の『夜の床屋』。

 

 

 

  

 面白そうなタイトルですよね。最初の一作目のタイトルです。

 ミステリを読みなれた人なら、「ふむふむ、床屋が営業しているはずのない時間帯になぜか開いていたという謎を解く、日常の謎系ミステリかな?」と思うのではないでしょうか。

 それは当たってます。当たってますけど、本を最後まで読むと「当たってる……のか?」ってなります(意味深)。

 

 あー、面白さを説明しづらい。というより予備知識なく読む方が楽しめると思うので、読んでもらうために何を書けばいいのか悩むんですよね。

 連作であってこそ、というか最後の一篇まで読まないと意味がない本なので、とりあえず最後まで読んで欲しい。正直、私はそんなに日常の謎系って魅かれないので、中ほどの『ドッペルゲンガーを捜しにいこう』で中ダレを感じたんですけど、そこで読み止めずにいてよかったです。

 

 最後まで読んで「なんじゃこりゃ(怒)」となるか、「なんじゃこりゃ!(喜)」となるか、人によるのではないでしょうか。雑食な人の方が楽しめるかな。いずれにせよ、なかなか忘れがたい読書体験になるんじゃないかと思います!

 

 クロヤギです。

 

   デビュー長編ながら星雲賞、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞などを総なめにしたSF小説、アン・レッキーの『叛逆航路』。おもしろいとは聞いていましたが、本当におもしろかった!

 

 

 

 

  話の大筋は、銀河全域に人類が広がった遠い未来を舞台に、上官の復讐のため、主人公が巨大な敵に戦いを挑むというストーリー。スペースオペラ的といってもいいと思いますが、いわゆる勧善懲悪ものではありません。「そうくるかー!」という展開に唸らされます。

 ストーリー自体もおもしろいのですが、この物語を特別にしているふたつの要素があり、これらが大変すばらしく、読者をわくわくクラクラさせてくれます。

 

 まずひとつめは、主人公が「属躰(アンシラリー)」といって、人間に宇宙戦艦のAI人格を強制的に上書きした艦の装備品であること。一隻の戦艦には属躰が数百数千と存在するけれど、どれも元々の人格は失われ、肉体は戦闘用に改造されて、戦艦AIの人格と記憶を共有しています。

 主人公ブレクは〈トーレンの正義〉という兵員母艦の属躰だったのですが、任務中に裏切りにあって上官と艦を失い、ただひとり生き残ります。そして復讐を胸に秘め極寒の辺境惑星に降り立ったところから物語は始まります。

 もうこの設定だけで「読む!」となりますよね。

 え? ならない?

 仕方ない、それじゃあ、もうひとつのもっとすごい魅力についてもお話ししましょう。

 

 ブレクが属した〈トーレンの正義〉は、強大な武力を有する専制国家ラドチの軍艦です。ラドチはアナーンダ・ミアカーイという絶対的支配者を戴き、家系が能力よりも優先される強固な階級社会ですが、一方でその言語にはジェンダーを区別する言葉がないのです。

 ラドチャーイ(ラドチ圏の住民)も人類なので当然、生物学的な性差はあるのですが、社会的に男女を区別することがなく、三人称は常に「彼女」――原作では ”she”――で表されます。「兄弟」という言葉はなく、親を同じくするものはすべて「姉妹」、「姉妹」の子どもはすべて「姪」、「ヒーロー」は存在せず「ヒロイン」しかいない、親は「母」しかおらず子は「娘」しかいません。

 

 これを訳すのは、言語によってはとても大変だったようです。 

 それについては出版元のHPに、 ”「彼女はたぶん男だろう」――あらゆる登場人物が女性形で呼ばれるアン・レッキー『叛逆航路』、5カ国語でどう訳す?” という記事があります。ネタバレはないので未読でも問題なくお読みいただけますし、各言語における文法上のジェンダーの違いがうかがわれて大変興味深いのでおすすめです。

 ここでは日本語版の翻訳者の発言についてのみ引用させてもらいましょう。

 

「主人公ブレクはラドチ圏の外で、ジェンダーの使い分けを間違わないよう気を遣いますが、日本語訳では逆に、できるだけ曖昧にするにはどうしたらよいか、で悩みました。」

「一方、三人称のsheに関しては、日本語訳でも当然女性を指すので、日本の読者は『女性らしくない話し方≒男性』と推測した人物が『she(女性)』で示されると、当初はおそらく違和感を覚えるでしょう。しかし、それがむしろ、物語世界に対する読者のイマジネーションを刺激し、膨らませてくれるのでは……と、いまは期待しています。」

 

 訳者のこの狙いは、少なくとも私にとっては大当たりでした。

 『女性らしくない話し方』から無意識に男だと思い込んでいたキャラクターが「彼女」と示されると、違和感というか、はっとするんですよ。「ああ、そうだった、この人物は男女どちらか分からないんだった」と。

 自分が小説を読む時、登場人物の性別にいかにこだわって読んでいたか初めて意識しましたし、ジェンダーが無視されるだけでこんなに地に足のついていないような感覚に陥るものなのかと色々と考えさせられました。とてもおもしろい体験でした。

 そしてジェンダーが影響しない人間関係、我々とは違う社会制度における人間関係とはどういうものであるか、想像力をぐいぐいと刺激されます。

 

 興奮のあまり長くなってしまいましたが、そういうわけで大変おもしろい小説です。

 ハードSFではないので化学式や細かい数字や科学用語がでてくるわけでなく、難しい科学知識とも無縁です。いっそファンタジーを読むような感覚で読むことも可能に思いますが、本作は主人公の一人称で書かれているため説明なくSF的ガジェットが出てきます。ネット上の感想を見ると、SF小説に不慣れなひとはこのせいでついていくのが大変なようです。

 でも大丈夫。あなたがSF初心者なら、僭越ながらワタクシメがSFを読む時の秘訣をひとつお教えいたしましょう。

 書いてあることをすべて理解する必要はありません。ぼんやりと「こういうことかなぁ」と思うどころか、「なに書いてるんだろうなぁ」状態でも読み進めれば意外とおもしろくなってくるのがSFです。後から「ああ、そういうことか」と分かるような仕様になっていることも多々ありますしね。

 ワタクシ、自分を振り返っても、周囲やネット上のSF読者の感想を見聞きしても、多くは作家の書いていることを全部分かろうなんて最初から思っていないと断言しちゃいます。「何書いてるのかよく分かんないけど、おもしろいからOK」、意外とそんなものです。

 本作も、「フライヤー? ちらしじゃないよな、飛行体? 北西の牧草地に行くっていうんだから空を飛ぶ乗り物かな?」でいいし、「アーマー? 鎧兜? 属躰にしか見えなくて弾丸を通さないはずのものというなら、人間には不可視の防御シールドかな?」、「インプラント? 義歯じゃないよな、何か埋め込み式の便利なものみたいだな」で問題ないです。少なくとも私はその程度の理解で十分楽しめました。

 

 SFというのは馴染みがないものがやたらと出てきてとっつきにくいかもしれませんが、馴染みがないものが出てくる世界だからこそおもしろいんです!

 異世界を描くといえばファンタジーですが、「よくこんなことを考えるなぁ、作者の想像力はどうなってるんだろう」と私が最も感心させられるのはSFです。

 この本に限らず、ぜひ多くの人にSF小説を手に取ってもらいたいなぁ、と思っています。

 

 『叛逆航路』は三部作の一作目。

 二作目『亡霊星域』は、『叛逆航路』を読んでる途中に買い求めました。はやく読みたいような、すぐに読むともったいないような気持ちでいますが、読後にまた感想を記事にしたいと思います。