亡くなられてから12年後にお願いして嵯峨のご家族から戻して頂きました。
歌舞伎座や国立劇場では十三代目さんに直接お渡ししていました。
南座、中座、御園座の楽屋気付で、東京でのお住まいや嵯峨に宛てて本当によく書きました。
十三代目さんは出番が終わるとすぐにお帰りになるのが常でしたので、
三階や幕見席から猛スピードで楽屋口へ行き、お見送りをする時に手紙はお渡ししていました。
秀寿さん(後の松之亟さん)か當十郎さんが、十三代目さんが頭をぶつけたりしないように
右腕を車の窓の形に合わせてスタンバイしていらしたのを思い出します。
十三代目さんが車内に座られると「大旦那さん、やえさんです」と秀寿さんか當十郎さんが伝えて下って、
十三代目さんは「今日もありがとう」と私に御手を差し出します。
私がその御手に手紙をのせると十三代目さんはちょっと拝むように手紙を捧げてから懐にしまって、
「今度はいつ見にきてくれるの?」とにっこり笑って仰るのでした。
ファンにとってはこれは殺し文句でございました・・・。
私は行ける最短の日にちを伝えて、十三代目さんと握手をしてお別れです。
車が出た後も追いかけて、車が止まると必ず十三代目さんは窓を開けて手を振って下さいました。
大奥様がご一緒に車に乗ってらっしゃる時は、ちょこっと十三代目さんの向こうからお顔を出して一緒に手を振って下さって。
本当に毎回嬉しくていつまでも手を振っていました。
懐かしい、思い出です。
今回、私が書いた手紙の中から十三代目さんのお芝居の感想をピックアップしてブログに・・と思ったのですが・・。
最初に取り出した手紙の出だしが・・
「拝啓 仁左衛門様。今日もお元気でハンサムですか?」
なんじゃこりゃー!!!
・・でしたので、また十数年寝かそうと思います・・。
十三代目さん、こんな手紙を読んで下さって本当にありがとうございました。
改めまして、十三代目さんに感謝致します。