エモとは? (その1:メガネ男子の逆襲) | マノンのMUSIC LIFE

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エモとは「エモーショナル・ハードコア・パンク・ロック」emotional hardcore punk rock
(アメリカ英語では「イーモ」が発音としては近いでしょう。)

ということでまちがいはないんですが、その用語の使われ方は年代によって変わってきたようで、ちょっと説明が必要。
(昨今、一部の若い人達が音楽以外の場面でも「エモい」という表現をするようになっているようですが、そこには踏み込みませんww)

エモがブームとして注目され「スクリーモ」や「ピアノエモ」などサブジャンルを持つほどの多様性を得たのは2000年代に入ってからですが、用語自体はUSハードコアの流れで、ディスコード・レーベルを中心としたフガジ、ダグ・ナスティ、ジョーボックスなどのワシントンD.C.周辺のバンドが80年代に「エモコア」と呼ばれるようになったのが起源というのが定説。

その辺のバンドが速さや強度ばかりでなく、パンクを軸としながらも、オルタナティヴな音楽性の豊かさを追求しようとしていた、という部分をピックアップしての命名だったかもしれませんし、90年代になって西海岸で盛り上がってきたメロコアに対応するジャンルとして盛り上げようという意図もその後出てきたはず。
その頃、ジャンルの名称としては日本にも入ってきましたが、イメージも固まらず時期尚早だったのか、それを代表するようなバンドがブレイクするという決め手もなく、一時沈潜化を余儀なくされたのです。

FUGAZI - Turnover (Live 1991)


こうして聴いてみても、メロディーに哀愁的なものはほとんど感じられないし、むしろソニック・ユースあたりの影響を強く感じるほどで、21世紀のエモとは断絶感があります。
ずっとUSパンクシーンの変遷を追ってきていれば、そうも感じないのかもしれませんけどね。

当初は喜怒哀楽すべて含んだ「情熱的」という意味合いでのemotionalだったんでしょうが、それはロック全般にとって当たり前の要素で、ジャンル分けにはあまりなじまない言葉。
「女々しい」という否定的な意味合いはあまりなかったと思われますが、いまや「エモ」=「哀」というのが一般認識。
哀愁を帯びた曲調でひ弱な感情を押し出してくるバンドが90年代末に多数出現してくるにあたって、こういうのこそ「エモ」だろ!と再定義されたのだと思われます。


今回はそのミッシングリンクを探るというテーマなのですが、やっぱりコレなんじゃないかなぁ。
さぁ、この1stアルバムのジャケットを見よ!

WEEZER

「普段着・さえない表情・中途半端な立ち姿」の三重苦ですね。
当時は気づきませんでしたが、今から見れば意図的に「新しいロック」を仕掛けているのは明らか。
元ネタはこのフィーリーズの1stだと言われていますが、それは色合いからだけで、肝心なのは手の状態。
4人それぞれ違っていて、かなり計算された構図であることをうかがわせます。
FEELIES

しかもジャケ写なんて何十ショットと撮るわけで、普通ならこれ選びませんよね。
「ダサい男子がさえない日常を女々しく歌う新しいロック」の象徴として、間違いなくダサさMAXの一枚を選択しているはず。
中身の音楽に対する自信があってのコレでしょうが、狙い通りにビッグヒットしたこの曲をどうぞ。

WEEZER - Buddy Holly (1994)


折しも全米規模でグリーン・デイやオフスプリングがビッグヒットを記録したのと同時期に出てきたわけですが、中心人物のリヴァース・クオモは、パンクよりもキッスやガンズとかが好きなメタルキッズで、メンバーの出身地はバラバラですがLAで結成されたこともあってか、エモに分類されはしないけれどエモを語るには欠かせない、という落ち着きの悪いバンド。
まぁパワーポップというのが一番近いかな。

リヴァースは自ら「僕はバディ・ホリーそっくり」と歌うわりには、この時点ではジャケットでもビデオでもメガネをかけてませんが、彼以降くるりやアジカンをはじめとして、最近のBLUE ENCOUNTやWHITE ASHに至るまで、日本でも「メガネヴォーカル」君が普通にアリになるのですから時代は変わるもの。
昔は南こうせつとかアルフィーの坂崎とかアコギ系しかいませんでしたよ。
ライトの下だと余計に暑いし、しかもあれは飛びますからねwww

21世紀になってメガネ男子がモテるのも、すべてはリヴァースのおかげ、JINSや眼鏡市場は彼に感謝状をあげてください。


それまでのロックは文学的なものももちろんありましたが、どちらかというと体育会的なバンドのたたずまいがメインストリームのアメリカン・ロック。
英米問わずハードロックでも失恋ネタというか「女に振り回されるオレ(笑)」的な題材はかなり多いんですが、それはあくまでもマッチョな存在感の中でのスパイスとしてあるもの。

ウィーザーをきっかけに、日本でもその後「泣き虫ロック」「泣きメロ」なんて用語が出てきたように、「哀」の部分をメインに持ってきて、さえない男子が失恋や日常のうらみつらみなど私小説的な内容を、哀愁味を帯びた曲調に乗せて歌う、という方法論が熟成されて、それが世紀末に向かってひとつのジャンルを形成するほどの勢力となっていくのです。

名前はあるけど実体は不明確、そんな90年代中期における「エモコア」という言葉に(結果的に、ですが)現実化への道筋を与えたのがウィーザーというバンドだと言っていいと思います。


さて、1stアルバムではカーズのリック・オケイセクのプロデュースで、かなりカッチリとした音像にまとめられていたのですが、2nd「PINKERTON」では一変してラフな音造りに変貌。
当時は「NEVERMIND」のブレイク後にスティーヴ・アルビニを起用してささくれ立ったバンドの生音により近づけたニルヴァーナの3rd「IN UTERO」を連想させました。

PINKERTON

実際に後年日本女性と結婚することになるリヴァースですが、ここでは蝶々夫人に心を寄せるピンカートン海軍中尉に自らをなぞらえて・・・見事にセールス的に失敗しますwww

キャリア中、全米で10位に入らなかった唯一の作品となったわけですが、日本人の身びいきをさっ引いても、これは1st以上の名作ですよ。
なにより「エモーショナル!」
その代表例をどうぞ。

WEEZER - The Good Life (1996)


普通はロックバンドでも、最初のリズム録りではドラマーがクリック音を聴きながら、それに合わせてリズムを安定させるわけですが、ここでは「そんなの関係ねぇ!」
リヴァースの感情が指揮棒を握っている。
彼が激すればバンドは走り、気持ちが落ちればスローダウン。
これこそ言葉の真の意味での「エモ」を表現した曲かも。

そして、なんと言っても、日本の18歳女子がくれたファンレターをそのまま歌に入れ込んだ一曲で、バンドへの親近感は俄然深まったのです。

WEEZER - Across The Sea (1996)


「こっちにはこんな素敵な便箋ないから、匂いを嗅いだり舐めたりしてもうボロボロ。
どんな部屋で過ごして どんな服着て学校行くんだろう?
どんな感じでオナニーするんだろう?

なんでそんな海のむこうにいるんだよ。
君が手紙をくれるなら ボクは歌を贈ろう」(大意:マノン訳)

さらにエモ感を盛り上げるリコーダーやピアノの使い方も、後のエモの担い手には影響を与えたに違いない。
埋めがたい2人の距離のはかなさは涙を誘いますが、間奏の気の狂い方も素晴らしいです。

そもそもこのアルバム、「SEXに飽きたぁ」って曲から始まって、20代男子の狂おしい妄想と性欲を、歌詞もともかく見事に音像化したプログレッシブな一品ですよ。
もしかしたら、本国の人にとっては生々しすぎたがために売れなかったのかもしれません。(それでも全米19位50万枚ですが)

リヴァースにしてみれば、これが売れなかったことがずいぶんトラウマになったようで、その後はわりと一般的なウィーザーのイメージをなぞるようなバンドになってしまったのが、あたしとしては残念です。

再びオケイセクにお願いして、米国人が望むウィーザーを差し出して100万枚プラチナアルバムとなって事なきを得た3rdアルバムからもっとも「エモい」1曲を。

WEEZER - Island In The Sun (2001)



米ドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」などを見るに、米国の高校・大学なんてまずは体育会系(または社交クラブ)かオタクかで階層分けされてしまう感じですからね。

BEVERLY

かつて「文化系・オタク・非力」な三重苦のあたしのような男子は生ギターでフォークとか、バンドを組んでも軟弱なものをやるイメージだったのが、「エモ」によって爆音で哀しみを表現する道がここに広く解放されたのです。
でも根っこはパンクだってことなのか、エモ系のミュージシャンは軟弱そうに見えても腕にはびっしりタトゥーが入ってたりするんですよねぇ。

DASHBOARD
こちらはダッシュボード・コンフェッショナルのクリス・キャラバさん。ビバヒルの主人公ブランドンに似てますwww


次回はそんなエモの代表的なバンドをご紹介します。


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