「理想の人は優しい人」に隠された罠
旭川 夫婦問題・離婚カウンセラー山咲みき
これまで受けた夫婦問題のご相談の中から、「なるほど」と気づいた優しさに関する「思い込みと錯覚」についてお話ししたいと思います。
幸せなはずなのに、なぜ私は満たされないの?
ご相談者さまは42歳の奥さま。
交際中ご主人は穏やかで、なんでも「いいよ」と言ってくれる包容力と優しさに惹かれた。
結婚してからも真面目な人で、夫婦間での大きなトラブルもなく、平凡だけど幸せな家庭生活を送って来ました。
ご主人は世間の旦那さま方と比較しても優しい人のようです。
でも、ご相談者さまはなんだかモヤモヤとした気持ちがずっと晴れず、それが何なのか自分でもわからなくて苦しんでいました。
しばらくお話しを聞くうちに、そのご相談者さまのモヤモヤが何であるかが分かって来ました。
優しいのに優しくされたことがない
ご主人は確かに優しい印象の人ではあるのです。
仕事は真面目、滅多に声を荒げるような事もない。
子供も可愛いがるし奥さまに対して細かな要求や批判的な態度も見せない。
そう聞くと「何の不満があるのか」と思いますが、実はご主人、人柄こそ優しいのですが、本当の意味で「優しさや思いやりを人に示す事がない人」だったのです。
奥さまのやりたい事や意見を遮ったりはしないし、苦手な事や失敗を強く責めたりもしない。
だけど、奥さまの気持ちの動きに対してあまり関心がないというか、否定しないのは関心がないからで、どうでもいいように私には見えたのです。
奥さまが出す小さなSOSには全く気づいてくれないし、奥さまが興味のある事を一緒に楽しみたい、共有したいと思っても、拒否はしないけれど興味は示さない…という感じでしょうか。
奥さま自身はそのことに気づいていませんでした。
ご主人の様子は客観的には理解できたのですが、私でもそれを上手く説明する事は難しいのですから、当事者にとってはそれは「モヤモヤ」する事でしょう。
もっと分かりやすく説明すると、奥さまの観たい映画に誘ったら「君が観たいなら行っておいで」と付き合ってくれない。
もしくは、一緒には行ってくれるものの、興味を持ってくれたり共感もほとんどない…という感じでしょうか。
家事で例えるなら、忙しくて家事に手が回らない時、部屋が散らかってても食事の時間が遅くなっても、洗濯ものを干せなくても、文句は言わないけれど手伝ってもくれないのです。
これって、ビミョーな問題ですよね。
優しさや思いやりをどう捉えるかは人それぞれですし、何が正解かもはっきりとはわかりません。
思い込みと勘違い
こういう話を聞くと世間の人は「贅沢な悩み」「考え過ぎ」というかもしれません。
でも、当事者にとっては何とも辛いものなのです。
このご相談者さまの一番の苦しい部分は「主人は優しい人」という思い込みが先にあり、それなのに「自分は不満を抱えている」という自責の念にかられている点です。
文句を言わない=優しい人という勘違いもあります。
本当の優しさを追求するとどうなるか
では、ここでご相談者さまが「本当の優しさとは何か」を追求するとどうなるでしょうか。
そこにこだわってしまうとこのご夫婦は離婚の道へ真っしぐらになるのではないでしょうか。
「ずっと優しい人だと信じて来たのに、本当のあなたは優しいフリして私の事なんてちっとも興味がなかったのね 怒」という大惨事になりかねません。
それはあまりに極端過ぎますし、離婚しなければならないほど問題が悪化しているわけでもないと思うのです。
しかし、ご相談者さまは優しい夫に不満を持つ自分が間違っているのか、また、夫は私に興味がないと悩み、このままではそれが精神的な負担となって夫婦関係が上手く行かなくなってしまうかも知れません。
どう受け取るかが解決への分かれ道
奥さまのモヤモヤした気持ちにはちゃんとした理由がありました。
夫は「優しい人」という思い込みと「優しい=正義」的な勘違いです。
ご主人は確かに優しい人ではあるけれど、共感力に乏しく察する事ができず、奥さまが考える、求めているものとは違う優しさだという事。
自分と他者との境界線がはっきりしていて、夫婦といえどそこを交わらせる事はしないタイプなのでしょう。
その上、男性は「察する」という事が苦手な生き物であり、要求ははっきりと言葉で伝えなければわかってもらえないということを奥様は理解していません。
「優しい人だからわかってくれるはず」と勝手に思い込んでいたんですね。
そこを押さえて接していくことができれば、奥さまの「理由のわからないモヤモヤ」は少なくなっていくと思うのです。
優しいという言葉の魔力
「優しい人」って定義は曖昧で都合の良い言葉だなって思います。
捉え方も人それぞれですし、正解もない。
これほど抽象的で曖昧で不確かなものなのに「理想の相手は優しい人」という意見が多数を占めます。
ご相談の中でも、本当はとても大変な状況なのに「でも、優しい人なんです」で片付けられてしまうのも、優しいという事にはそれだけ人を惑わす魅力があるんだな…と、痛感するのです。
人は「優しい」という言葉にこれほど依存して生きているんですね。
「結婚生活や離婚に悩む人の伴走者」
山咲みき
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