このときすでに「不思善不思悪」に徹し、明鏡止水のごとき境地に達していた慧明は、六祖のたったこの一語を聞いただけで、忽然として大悟しました。
すなわち「本来の面目」をはっきりと自覚できたのです。
慧明は歓喜のあまり、思わず全身に汗を流し、そして涙ながらに礼拝しました。
この慧明の大悟の様子を見てとって、六祖も共に喜び、
「これぞ五祖直伝の大法なのだ。これ以外に別に秘伝も妙術もありはしない。お互いにこの五祖の大法を汚さないよう、いよいよ光輝あらしめるよう、努力しようではないか」
といって、慧明を印可するとともに、更に、五祖のもとへ帰って修行にはげむよう戒め励まされました。
慧明は最後の礼拝をして、もと来た道を引き返して行きました。
一方、六祖は、更に、南へ南へと急がれるのでした。
(了)
(※)
「茶席の禅語」(西部文浄著) から引用させて
いただきました。
ろくに修行も後輩指導もしてこなかったであろう六祖が、一目で慧明の境地を見抜き、適切な言葉で指導できたというのは驚きです。
すぐれた師というものは弟子の境地を確実に見抜くものなのですね。