『量刑』 夏樹 静子 | OYJ Dimension

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単なる備忘録として。

『量刑』

夏樹 静子

株式会社 光文社

2001年8月10日 第2刷発行

Book Off OnLine \110-

 

  総ページが711ページに及ぶ長編大作で、内容も重厚で読みごたえがあった。ここ最近読んだ法廷小説の中では一番の面白さだった。正に自身が求めていた法廷小説だった。

 

 容疑者となる上村岬は離婚歴がある女性で、飲食店などを経営する会社の役員の男、守藤秀人の依頼を受けて、自動車で大金をある場所に運んでいた。その途上、道を誤って、焦りが生じた時に不注意で、犬の散歩中の母子を跳ねてしまう。自動車事故で汚職絡みの大金運搬の発覚を恐れた秀人は、岬に金の運搬を取りやめ、被害者の母子をトランクに入れて、一旦戻る様に指示を出した。しかし、岬はその後に意識を取り戻した母親の口を塞いで、また子供の首を絞めて二人を殺してしまう。岬と秀人は共謀して二人の遺体を奥多摩の山中に遺棄するが、事件はほどなく発覚し、やがて岬は逮捕され、起訴され、裁判が始まる。

 

 岬の起訴以降は、日本の刑事裁判(裁判員裁判が始まる以前の裁判)の手順を踏んで、裁判の話が進んで行く。検事と弁護士と裁判長と裁判官(右陪席、左陪席)のやり取りが続く。705ページに記載があるが、「刑事裁判ではごく一部の場合を除いて、立証責任はすべて検察側が負う。検察官が、犯罪事実を証拠によって証明できなければ、「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則に従い、無罪となる。法廷に提出される各種多様な証拠と、弁護側の反証の、どれを採用し、どのように評価し、「事実」を如何に認定するか。それは裁判官の自由心証によるものだ。」この文章で説明されるように、法廷での検察と弁護の攻防が続いていく。有罪/無罪の最終決定、量刑も三人の裁判官の合議で決定される。裁判官の合議のシーンは息の詰まるやり取りが描かれる。

 

 ここまでは、淡々と裁判の中のやり取りが詳細に書かれるが、中盤、判決に大きな影響を及ぼす新たな誘拐事件が勃発する。事件は、シンガポールからヌメアにまで捜査の範囲が広がり、交通事故をきっかけとした殺人事件は、国際的な誘拐事件に発展する。物語は法廷小説から一転して誘拐事件の犯人を追う、検事と警察の捜査に話が展開していく。最終的に悪い奴は捕まって、後味爽快な展開なので、気持ちよく読み終えることが出来る。

 法廷小説だけで終わらないところが、夏樹静子氏のエンターテインメントなストーリー展開だ。