『沈黙法廷』 佐々木 譲 | OYJ Dimension

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単なる備忘録として。

『沈黙法廷』

佐々木 譲

2016年11月20日 発行 

株式会社新潮社

Book Off \220-

 

 東京の赤羽近辺で60歳代の一人暮らしのちょっとした資産家の男性絞殺死体が発見された。容疑者として浮上したのは山本美紀という個人でハウススキーピング(言うならば家政婦仕事)を請け負っている女性だった。検視で男の死亡時刻と推測される時間帯に仕事で男の家を訪れていたことが理由だった。警察の捜査で、容疑者山本と関係のあった埼玉県などに住む高齢の男性数人が不審死を遂げていることが判り、連続高齢者殺人事件の犯人と疑われ、マスコミにも大きく取り上げられることとなる。しかし、いずれの案件でも山本容疑者の犯行を示す直接的な証拠は見つからなかった。

 

 物語の後半は、起訴された山本容疑者の裁判をめぐる話で、敏腕弁護士と検事の法廷での論戦が描かれる。状況証拠を積み重ね強盗殺人事件を立証しようとする検事と今までに一歩間違えば冤罪になる事件を解決し、無罪を勝ち取ってきた若手弁護士との法廷での闘いが詳細に描かれる。

 

 まるで読者が傍聴席に座っているかのような緊迫感と詳細な描写は読む者を引き込む。最近「法廷小説」というキーワードで本を検索して、購入しているが、私が今までに読んだ法廷小説の中でもベストスリーに入ると思う。嘗て山本容疑者と「将来について考える機会があった男性」高見沢を裁判の傍聴者として登場させ、検事や弁護士の質問とその意味について解説させる登場人物の設定は、小説を面白くする効果があり、作家の力量に感嘆した。