ドクトルA(アー)によろしく | 星垂れて平野闊く 月湧いて大江流る

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 前項の続き。

 

 わたくし、人の経歴というものにあまり興味がない人間でして、著者のプロフィールの所をよく読んでいませんでした。

 読み返してみたら、

 

>1978年生まれ。東京大学工学部卒。市民の人権擁護の会日本支部
>代表世話役。著書に『発達障害バブルの真相』(萬書房)、
>『発達障害のウソ』(扶桑社)。

 

 あたしと同い年なんですね。

 それはどうでもいいとして、「市民の人権擁護の会」って何よって話ですね。

 扶桑社というと有名な右翼の出版社ですし。

 

 なんかこの本とこの著者、変じゃね?と思って色々調べてみると、「市民の人権擁護の会」というのは、サイエントロジーという米国発の新興宗教の活動の一部みたいです。

 で、サイエントロジーというのは、精神科医を目の敵にする宗教なんだそうです。「全ての精神科医は犯罪者である」という宣言が基本的教条なんだそうです。

 怖いっ!(><)まるで魔女狩りやKKKのようではないでしょうか。

 

 この米田さんって人、学生の頃からその活動をしているということなんですけれども、もしかして自分自身が子供の頃か若い頃に発達障害の診断を受けて、そのことに拘っているってことはないですかねえ。

 単なる邪推でして、もし違ってたら本当に申し訳ないんですけども、「灘→東大工学部」「発達障害というキーワードに過剰反応」って、なんかもんのすごくそんな感じがしたものですから。

 

 あたしもいろんな精神科のクリニックを渡り歩いていますが、今までで一番好きだった先生は、「なるたけ薬を使わない方がいい」と考えているようでした。ひたすら患者のくだくだしい話を聴いて、聴いて、でも、自分の見解や感想も語る、そういう先生でした。「対話こそが精神科治療だ」「人は自分の思いや経験を言葉にして、他者からフィードバックを貰うことでしか癒されない」と考えていたんじゃないかと思います。

 「ぼくも勉強になります」「自分の知らない世界の話を聞けておもしろいです」と言ってもらったこともあります。

 

 その先生は、「発達障害なんか、障害とか病気とかいうほどのものでもない。そういうタイプの人がいるってだけのことですよ」とさらっと言っていました。

 「マミさんがアスペルガーとはぼくは思いません。違うと思います」と母に言ったこともあるそうです。

 実際、アスペルガーってのは、ドイツのハンス・アスペルガー博士って人がある論文を読んでいて、特殊な感覚や症状を持つ人がいるな、と思い当たったという、たったそれだけの話です。ちなみにこのハンス・アスペルガーはナチです。

 

 あたしはべつにどっちでもいいと思っています。

 「発達障害」「精神疾患」と言われると、殊更相手に悪意があるかのように曲解し、そのことに拘って、「素人が病気の診断を下していいのか!」「医事法違反になるぞ!」などと不釣りあいなまでに怒り狂う人がいますが、血液型による性格診断みたいなものなのでそんな怒るほどのことではないです。

 

 それよりも、あたしが違和を感じたのはこの点でした。

 

>そこで、別件から追及しました。執念で不正請求とその証拠を
>見つけ出し、警察、保健所、厚生局、マスコミなどに徹底的に
>働きかけ、詐欺事件として逮捕・起訴・有罪へと追い込むことが
>できました。そこに至るまでの様々な苦難、そして法改正に向けた
>私とご遺族の決意を本書にしたためています。

 

 もちろん、診療報酬の不正請求はよくないことですが、「別件で追及」というのは、堂々と言えるようなことではないと思います。患者に対する不適切な性的接触があり、その結果、患者が自殺に追いこまれてしまったという事実があったとしても、「別件」は飽くまで「別件」です。女性患者の事件と不正請求とは何の関係もなく、その医師は本来裁かれるべき件で裁かれたわけではありません。

 もし、医師が立場を利用して多くの女性患者の心と体を弄び、少なくとも二人を自殺に追いこんだのが事実だとしたら、不正請求なんかは軽すぎて比較にならない微罪だと思います。もちろん、法的に、ではなくて道義的に、という意味です。自殺した女性の件ではこの医師を法的に裁けないことが明らかだったので別件で追及した、という話でしょうから。

 「別件で追及」というのは、社会正義を追求するためではなく、ただ、「この医者個人をひどい目に遭わせたいから」「自分に発達障害の烙印を押した精神科医療やその従事者という存在に仕返しをしたいから」という動機のように思えます。それこそ、義憤ではなくて私憤です。

 これでは彼女たちも浮かばれないのではないでしょうか。

 

 この「しあわせなみだ」という組織は「Spring」という組織と割と近く、共に、刑法の性犯罪に関する規定をもっと被害者寄りのものに変えようという活動をしている女性たちです。実はあたしも何年か前、一緒に活動していたことがあります。

 同系列の組織や団体、マスメディアが色々あるようですが、時々、「あたしの考えとちょっと違う」と違和を感じる時や、「ついて行けない」と思うことがあります。

 細かいことを挙げればきりがないですが、いくつか言うと、あたしは、フェミニストであれば勇気を持って天皇制反対の声を上げないといけないと思います。

 しかし、今日びの若いフェミニストたちは、天皇制を当然の前提として受けとめていて、あまり疑問を持っていないようなんです。徳仁が即位した時にも大喜びで「令和、令和」と騒いでいるので腹が立ちました。

 

 性暴力、性犯罪の疑惑があれば何でも有罪と決めてかかるのもよくないと思います。

 法的に有罪というのは実際、有罪判決が確定しなければ有罪ではありません。中には、有罪判決が確定したけどよく調べたら無実でした、というのもあります。所謂冤罪というやつです。

 

 あたしは最近、「乳腺外科医を守る会」という会に入りました。手術後、麻酔の醒めていない女性患者に猥褻行為をした疑いで起訴されている医師が、冤罪を訴えて苦闘している事件で、この医師を信じて支援しようという会です。一審で無罪になりましたが、二審で懲役二年の実刑判決が出てしまいました。今、最高裁を争おうとしている所です。

 

 伊藤詩織さんも以前は応援していましたが、調べてみると、この事件にはおかしな所が色々あるとわかりました。

 何にせよ、伊藤さんと山口さんの話を、左翼VS右翼という話にすり替えるべきではないと思います。

 

 しあわせなみだ・Springの人たちは一点共闘の超党派で、自分たちの掲げる「刑法改正」というワンイシューに賛同、協力してくれる人ならどんな議員とでも手を組むのは、あたしも理解しています。

 しかし、十人以上もの人命を無慈悲に奪った上川陽子なんかと笑顔で同席するのはあたしは耐えられません。

 「人殺し!」と言ってしまいそうです。もしそんなことをしたら何もかも台なしになってしまいます。

 

 もちろん、刑法の性犯罪に関する規定をもっと被害者寄りのものに変えるのは大事なことです。

 しかし、いつもいつも頭の中はそればかりで、それしか見えなくなっていると危ういとも思います。

 

 それにしても、どうしてしあわせなみだがこの本を紹介しようと思ったのでしょうね。

 改めてメルマガの本文を読み返しましたが、こんなのはごく一部のタチの悪い医師や診療所の話だと思います。でも、精神科ではよくあることであるかのようにミスリードしかねない書き方です。

 しあわせなみだのメンバーに著者と縁のある人があったのでしょうか。著者がこの本を紹介してもらいたさに、無理やり「刑法改正」と結び付けているようにしか思えません。

 

 刑法が改正されたからといって、この医師が罰せられることはあるかなあ、とふと考えました。

 2017年に百十年ぶりに刑法の一部条項が変わって、「監護者性交等罪」というのが新設されました。十八歳未満の者に対して、親などの監護者がその影響力に乗じて性交等をする罪です。刑法第百七十九条が禁じ、強制性交等罪(旧強姦罪)と同様の処罰が適用されます。

 つまり、親や養い親などが十八歳未満の人と性的関係を持つと、親の方はそれだけで犯罪になるということです。

 

 しかし、学校の先生や部活のコーチなどには適用されません。

 また、相手が既に成人していれば適用されませんし、当然、血縁関係も何もない成人どうしであれば完全に適用外になります。

 刑法改正を求める人たちが問題視しているのはこの点で、「成人どうしであってもパワーバランスに大きく差がある場合」、つまり、大学の先生が学生に、上司が部下に、医師が患者になど、圧倒的上位者が自分の立場を利用して下位者と性的関係を持った場合、即座に犯罪成立するように法改正してくれ、と訴えているのです。

 今だって犯罪だと思うかも知れませんが、今だとせいぜい「セクハラ」くらいにしかならないのです。実際に関係を持たされたんだからそれを告発したいと思っても、日本は法律や制度の不備故、「不同意性交、即ちレイプであった」と法的に立証するのが難しいのです。

 そもそも日本の司法は、「不同意性交」を「強制性交(レイプ)」と定義してすらいません。そんなレベルの所から話を始めないといけないわけです。

 

 頑張ったのですが、2017年は残念ながら、この点の改正は叶いませんでした。でも、日本以外の多くの国ではこれが実現しています。

 

 再度法改正されれば、或いはこういう医者のような悪質なレイプ犯も告発され、有罪判決を受けることがあるかも知れません。

 しかし、法律は変わっても、個々の裁判官の考えや実際の運営はなかなか変わらなかったりするものです。

 実際、法改正後も、娘をレイプし続けていた父親に無罪判決が出たことがありましたね。この時は皆さんが頑張って声を上げたので、その後、逆転有罪になりましたが。

 

 Springの創設者である看護師の山本潤さんは、読者の皆さんもマスメディアで見たことがあるのではないでしょうか。

 山本さんは刑法改正の立役者です。「監護者性交等罪」は彼女が作ったと言ってもよく、間違いなく、二十一世紀の女性史に名前を残す人です。

 彼女自身が子供の頃、母の全く知らない所で、実父から性的虐待を受け続けていたのです。

 

 改正の日だったかな?あたしも国会議事堂まで審議傍聴に行ったのですが、山本さんは喪服のような黒い服を着ていました。

 「今まで、声を上げることもできずに無念の涙を呑んで死んでいった無数の女性たちの気持ちを背負うつもりで、この場に臨みました」

 とコメントしておられました。

 

 あたしが本稿でしあわせなみだやSpringを批判しているように受け取った方がいらっしゃるかも知れませんが、そうではありません。単に自分とは合わない部分があった、大してお役に立てなかったというだけです。彼女たちの活躍を引き続き、陰ながら応援しています。

 

 米田さんも、不正請求で医師を告発するのではなく、亡くなった女性の思いを背負って、法律改正のために行動を起こすのが正しいあり方だったんじゃないかと思います。