極めつけは「反戦平和主義のヒトラー」。最早二十世紀最大のシュールギャグです。
というわけで、くどいようですがクビツェク話続きます。
中学の卒業文集で、「生まれ変わったら何になりたいか」という設問に「イギリスの少年」と書いている女子がいました。
イギリスの少年はイギリスのおっさんになり、イギリスの爺さんになるのにな、と思ったものでした。
当然逆だってあるのです。
「ドイツの悪の化身のような憎々しいヒゲのおっさん」だって生まれた時からそうだったわけじゃありません。
昔は「オーストリアの透き通るような純真で感受性豊かな少年」だったんです。
「風と木の詩」の冒頭、有名な「ジルベール讃歌」の一節、「ジルベール・コクトー、我が人生に咲き誇りし最大の花よ 遠き青春と夢の中紅あかと燃えさかる紅蓮の炎よ」の固有名詞を「アドルフ・ヒトラー」に変換してクビツェクの本のキャッチにしても恐らく違和感ありません。
ジルベールみたく、「フランスの少年」の内に死ねればいいのですけどね。
それを果たしたのがアンネ・フランクです。永遠に無垢であり続けるアンネ。
しかし、永遠に無垢であり続けるリンツそしてウィーンのアドルフ、という考え方も可能ではないでしょうか。
善悪とか道徳とか政治的イデオロギーを超越して、それを可能にするのが文学とか芸術というものではないでしょうか。