すったもんだの新世紀 | 星垂れて平野闊く 月湧いて大江流る

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 先日、地元の友人が男の子を出産し、「大人になった時に恥ずかしくないように、威厳のある名前を」ということで、ちょっと古風な、あたしの感覚としては大変男らしいと思う名前を付けたと聞きました。

 最近はジェンダーレスな名付けをする親も多いのにな、とふと思いました。

考えてみれば、女の子に「威厳のある名前」なんてあんまり言わんな。「マミ」・・・・吹けば飛ぶような軽々しい名前で、全然威厳がありません。そもそも、平仮名や片仮名の名前って男性には殆どないですよね。

 

べつに友人夫婦を批判しようってんじゃありませんが、自分なら、その子が男か女か、どっちでもないかは、大きくなった時、自分で決めさせてやりたいと思う。

「大人になった時に、実は自分が男性ではなかったとわかってもなるたけ改変しなくていい名前を」と考える余地はなかったのかな。

 

 しかし、現在の社会システムでは、親がとりあえず男か女、どっちかっぽい名前を付け、男か女、どっちかで役所に届を出し、男か女、どっちかとして育てないといけない、幼稚園や学校にやらないといけません。

 みんな、自分が男か女かは自明のことだと思って生きていますが、実はそうじゃない。人間は生まれた瞬間に、男か女か、「他人に定義される」んです。「他人に定義され続ける」んです。

 尤も、その話を突きつめていくと、性別だけじゃなくて何もかもそうなんですけどね。

 

 

 大学の時、女性の上級生が「(吉川)ひなのちゃんとかジュディマリのYUKIちゃんって見てて羨ましい。彼女たちは女の子に生まれてきたことをきっと幸せに思っている筈」と綴っていました。

全く共感できず、反発と苛立ちばかりが募り、この人はあたしとは全然違う感性の持ち主なんだなと思ったことを印象深く覚えています。

 (世代が違うのでひなのちゃんとかYUKIちゃんなんて言われてもピンとこない、というのは勘弁して下さい)

 というのも、その頃からやっぱり、華奢な女性の肉体を持ち、女性として社会生活をしなければならないのは、少なくとも自分にとっては楽しいことではなく、どちらかというと辛いこと、損なことだと思っていたからです。

 

 しかし、では男性になりたいのかというと、逞しい肉体を持ち、立派なスーツを着て、ネクタイを締めて、家族を養って、体制の為に良い働きをして・・・・という、男性性の塊みたいな生き方をしないといけないんだったら、それはそれでものすごく辛いことだという気も致します。わかりやすく最悪なのが軍人だと思います。

 結局、この社会に厳格なジェンダー規範というものがある限り、女性も男性もその他の性の人も本当に幸せにはなれないんじゃないかと思います。

 

 さもなくば、必要に応じて、肉体をメタモルフォーゼできたら便利だし、おもしろいのにな、とか時々妄想します。

 かわいい女の子がガチムチの男のぬいぐるみを着たり、またはその逆のことができたりする世界を想像してみて下さい。

 

 「俺がもし、ビジュアルだけ若くてきれいな女性になれたら、年収一千万を稼ぐ自信がある」

と豪語する営業さんも知っています。本当にそうかどうかは確かめようがありませんが、何となく言っていることはわかります。彼の場合、扱っているものが自動車なので、当然お客は男性が多いでしょうから、余計にそう考えるでしょうね。

 

 実際、肉体の性別移行をして、既に生まれ持った肉体の性とは逆の性として社会生活をしている性同一性障害の人の話を聞くとなかなかおもしろいです。男性(または女性)だった以前と女性(または男性)である現在では、随分と色々なことが変わってくるだろうと思いませんか?

一番わかりやすいのが周囲の、特に事情を知らない第三者の視線や対応だそうです。

 

 高橋留美子の「らんま1/2」を読んだことはおありでしょうか。あたしはアニメしか観ていないのですが。

 一人のキャラクター(主人公の乱馬)が男の子になったり女の子になったりするという発想以外は何一つおもしろくない作品だと個人的には思っているんですが、あの優れた設定を程度の低いギャグじゃなく、シリアスな文学的実験として巧く使えば非常に興味深く、有益な試みになると思うんですよね。

 

 乱馬は元々は男の子なんですが、ひょんなことから、ある単純な条件を満たすと女性の体に変貌してしまう呪いを受けます(ちなみに戻る時も簡単に戻れる)。その彼の周りに巻き起こる、主に男女の色恋沙汰にまつわる騒動を描くスラップスティックです。

 ですからどっちかというと、乱馬は普段、女の子に変身することをあんまり好んでいないように見えるんですね(事情を知らずに男に惚れられたりもするので)。少なくとも、体は女性になってもアイデンティティは男性のままで、一人称も「俺」なら、女性らしい言葉遣いや振る舞いをしようという態度は微塵も見えません。勿論、見た人はびっくりするわけですが、本人は人前で裸になるのも恥ずかしくないようです。

 

 説明が長くなっちゃったんですが、その乱馬が珍しく、進んで女の子の姿になって喫茶店に行く話がありました。

 なんでわざわざそうするのよ、と訊かれて、「だって男がこんなもの喰えるわけねえだろ」と答えつつ、満足そうにパフェを食べるシーンが印象に残っています。

 

 「成程な、もしこんな体質?能力?が本当にあったら便利だな」「しかし、男の人って喫茶店でパフェが食べ辛いんだな、気の毒だな」と思ったものでした。甘いもの大好きって男性も沢山いる筈ですけどね。

 

 だいぶ昔のマンガなので、今時の若い男性の感覚ですと、「なんで男ならパフェ食べられないの?」「俺、平気だけど」と思う人の方が多そうな気もしますが。

 いい時代になってきましたね。