「前回の最後で、ハングル表記投票のおまけみたいなことを見るって言ってたけど、どんなことなのかな?」
「ほんと、おまけみたいなもんだよ。まずね、2年後に行なわれた第18回衆議院選挙についてこんな記事があったの」1932(昭和7)年2月3日付 東京朝日新聞
朝鮮人有権者四千三百余人
前回の約倍数
東京府で調査した所によると府内朝鮮人有権者は四千三百五十人に達し前回選挙の二千二百廿二人の約倍数に達してゐる、市内は千五百十九人でこれは主として本所深川に多く、市外では南葛飾郡の八百四人、北豊島郡の七百九十六人荏原郡の六百七十四人等が多い
これ等の有権者中には朝鮮字投票をする者が相当ある見込なので東京府では急におん文字書を作り各開票管理者に送付した開票管理者の方でも少々面食らつた形で、さっそくおん文の勉強にとりかかつてゐる尚朝鮮人有権者の前回選挙の棄権率は五割に上り、投票成績は余りよくない
「あれ?前回の選挙でも開票現場に「おん文字書」を送ってなかったかな?
「ハングルによる投票(1)で見た1930(昭和5)年2月1日付大阪毎日新聞に「困るのは開票管理者で、朝鮮文字が読めぬだらうといふ内務省の老婆心から近く地方長官をして朝鮮語のイロハ字典を各開票区へ送らしめ、候補者の氏名をあらかじめ朝鮮字で書いた虎の巻をそなへつけて置き、これで判断して投票を選別するさうだ」ってあったけど、「さうだ」やから正式には実行されへんかったんかな?」
「でもそれじゃ、前回の開票で混乱とかあっただろうね。前回配付したものがもう廃棄されてたのかな?」
「そのへんはちょっと分からないよね。「朝鮮人有権者の前回選挙の棄権率は五割に上り」とあるから、朝鮮人投票総数は約1200程度だったんだろうね」
「あいかわらずハングル表記投票数は分からないんだね」
「それでね、このハングル表記投票の有効化について、こんなことを書いている人がいるの」
金贊汀『検証・幻の新聞「民衆時報」ファシズムの台頭と報道の原点』(三五館 2001)
p154
一九三二(昭和七)年二月に行なわれた選挙の東京での事例を新聞は「これらの(在日の)有権者の中には朝鮮字投票する者が相当ある見込みなので、東京府では急に諺文字(ハングルのこと)書を作り、各開票管理者に送付した。各開票管理者の方でも少々面食らった形で、さっそく諺文字の勉強に取りかかっている」(注3)と報じている。開票管理者にハングルを習わせたという事実は極めて興味ある事実ではあるが、それが在日朝鮮人の「権利」の保障を目的としていたとは思えない。それまで権利は与えない方針を堅持していた日本政府が突然豹変することなどありえないからである。
これは一見、在日の人々に対する配慮の形式をとっているが、実は配慮でも何でもなく「一視同仁」「内鮮一体」の植民地支配体制を内外にアピールする宣伝として利用されただけである。一九三二年といえば、日本が中国東北部を侵略して「満州国」の樹立を画策して「五族協和」を高々と宣伝していた時期でもあり(満州国の樹立は一九三二年三月)、諸外国に在日朝鮮人に対してもこれだけ配慮をしているというポーズを示すことで「五族協和」に日本が真剣に取り組んでいるという宣伝にしたかったのだろう。
「えw 「開票管理者にハングルを習わせたという事実は極めて興味ある事実ではあるが、それが在日朝鮮人の「権利」の保障を目的としていたとは思えない」ってきたでw」
「「それまで権利は与えない方針を堅持していた日本政府が突然豹変することなどありえないからである」って、すごい断定だよね」
「つか、その2年前の衆院選でハングル表記投票の有効化は実現しとるしね。権利与えてるやんw 日本政府が満洲国樹立を画策していたとか、内外へのアピールだとか、もうツッコミどころかぎょうさんあるんやねぇw」
「ハングル表記投票については、松田利彦『戦前期の在日朝鮮人と参政権』(明石書店1995年4月)61頁に「(1930年)1月31日、内務省法令審議会にて朝鮮文字投票は有効と決する。内務省の決定書には、在日朝鮮人の人口が急増し「朝鮮文字も既に相当多数の間に使用せらるヽものと認め」られるのみならず、「朝鮮人の選挙権に対する理解要求共に‥‥進捗せる」ことが記されている。当局も、朝鮮文字投票の実現を求める朝鮮人の声を無視できなかったのである」って書いてあるんだけど、金は読まなかったのかな?」
「金の著作の方が新しいから、見ることは可能だしね」
「そうそう、ハングル表記投票については、舛添要一「立候補した父親とハングル選挙ビラ」(『現代』講談社2001年1月号所収)221~223頁に、1930年の内務省省議や新聞報道について紹介されているから、暇があったら見てみてもおもしろいかもね」
「へー、舛添要一のお父さん、そんなところで関わりがあったんやねぇ」
「最後に、1935年(昭和10年)8月の普通選挙法の改正にともなって、大阪府警が出した掲示を紹介しておくね」
「日本語版と漢字混淆のハングル版があるんだね。これって、朝鮮人に選挙権がないと無意味な掲示だよね?」
「そうやんね。選挙権があるから必要な掲示やもんねぇ」
「他にも大阪での選挙と朝鮮人に関しては史料があるんだけど、また機会を改めてみることにするよ。じゃ、今回はここまでにするね」
ハングルによる投票(1)
ハングルによる投票(2)







