写経屋の覚書-なのは「さ、『在日朝鮮人処遇の推移と現状』の続きを見ていくよ」

 二十二年五月公布の外国人登録令により、不法入国者はその適用をうけるべきであつたが、実際は、総司令部覚書にもとづき、現地軍政部の指示により処理されていた。送還者は不法入国者のほかに軍事裁判による追放者、連合軍指令による送還者があり、これらの護送は警察の担当であつた(12)。

写経屋の覚書-なのは「注12は『文書集』p85に所収されてるの」

写経屋の覚書-はやて「『文書集』?ああ、『在日朝鮮人管理重要文書集1945-1950』(外務省政務局特別資料課 1950 湖北社より1978復刊)のことやな」

公安一発第三一号
昭和二十二年二月五日

内務省公安第一課長

警視庁警務部長
警視庁刑事部長
各庁府県警察部長 宛

解放民族等の強制送還に関する件

 朝鮮人、台湾人、琉球人並に中国人其他の密入国者、連合軍指令又は軍事裁判による追放者等の強制送還は従来関係方面の打合せにより、適宜実施して来たのであるが、
 今般、連合軍の日本政府宛客年十二月十日付覚書(二月五日参考資料送付に関する件通牒参照)により密入国朝鮮人の護送は日本警察に於てすることゝなり、又連合軍軍事裁判による追放者は司法、内務両省協議の結果、暫定的措置として内務省に於て実施することゝ(別添一)なつたから、爾今左記により強制送還を実施し、取扱上遺憾なきを期せられ度
  記
一、警察に於て担当すべき要送還者
(一)密入国朝鮮人
(二)軍事裁判による追放者
(三)連合軍指令による送還者
(四)中国人、台湾人、琉球人其他の密入国者(現在公式な覚書はないが密入国朝鮮人に準じて取扱ふこと)

尚或地方では現地司法機関の依頼により解放民族等の在監者を警察部にて送還したる向があるが、
司法省に於ては、特に内務省に依頼する外、原則として監守等によつて、現地司法機関に於て実施する方針であるから、為念

二、送還の責任範囲

要送還者(密入国又は指令によるもの)を検挙、逮捕したる時、又は軍事裁判所乃至は現地司法機関より身柄を受け取りたる時より、長崎県佐世保又は京都府舞鶴の現地米軍当局に引渡す迄の間とする。
尚軍事裁判により、追放の言渡しがあり、且つその執行を警察に於てなすべき指令があつた場合、その身柄は直接日本側に引渡し、
解放民族等の関係団体には引渡さざる様、
目下別添(二)により終連を経て、司令部に要請中であるが、現地進駐軍に対しても、予め、了解方連絡し置くこと。

三、鉄道輸送

目下運輸当局と折衝中であるが、何分の指示があるまで現地交渉により実施された度

四、送還手続
(一)密入国者
 送還途中、R.T.O其他に協力方要請する場合の便宜上、或ひは、又、強制送還を正確に遂行する為め、左の事項を内容とする送還理由書を作成携行し身柄と共に現地米軍に提出すること、尚従来長崎県針尾収容所に於て、現地軍により、往々釈放された事例等があつて、密入国者取締に支障を来してゐる向もあるので
 これを防止する為には、
 現地に於て釈放される虞れある者については、特に詳細なる書面を作成し、要すれば、現地軍政官のサイン、指令等を取得して添付すること。
  1.検挙地(住所)、職業、氏名、年令
  2.鮮内の住所、職業
  3.上陸月日、上陸地並に検挙地(住所)に至りたる経緯
  4.検挙状況
  5.送還理由
尚長崎県は、
 (1)朝鮮人等より収容中の要送還者に関し、現地軍に釈放方の嘆願あつた場合
    又は現地軍の釈放方指令があつた場合は、釈放の猶予方を要請して、速に、送還庁府県へ照会すること。
 (2)「釈放」と決定した場合はその旨送還庁府県に通報すること。
(二)連合軍の指令又は軍事裁判による追放者
 追放に関する指令又は前項に準じたる送還理由書を作成携行して身柄と共に現地軍に提出し、
  1.引渡したる   月    日
  2.現地軍の部隊名
  3.同責任者名
 のサインを受け本省に報告すること。
 サインを受け得ざる場合は、長崎県当局又は直接現地軍より右の事項につき聴取して報告すること。
 尚この報告は、GHQの要求により、内務省より中央終連を経て、GHQに報告されるものである。
「別添一」(略)
「別添二」(略)

写経屋の覚書-なのは「この文中の『連合軍の日本政府宛客年十二月十日付覚書』はSCAPIN1391 Suppression of Illegal Enrty into Japan:日本への不法入国の阻止のことだよ。警察が護送を担当することになったっていうのは以下の箇所だね」

4.The Imperial Japanese Government will:

a.Continue in effect measures to detect ships illegally entering Japanese ports.
b.Seize all such ships and where possible sail them together with their crews, passengers and cargo to Sasebo or Maizuru and deliver them to United States military authorities at those ports.
c.Place all Korean illegal immigrants apprehend in Japan in cholera quarantine and otherwise medically process them according to existing memoranda covering entrance of persons into Japan. Upon clearance by quarantine officials, transport them to the Sasebo Reception Center by rail.
d.Outload Korean illegal immigrants from the Sasebo Reception Center on shipping designated for this purpose.
e.Furnish Japanese police for guards aboard train and repatriation ships transporting Korean illegal immigrants.


4.日本政府は

a.不法に日本の港に入る船舶を探知するための対策を継続すること
b.全てのそのような船舶を捕らえ、乗員、乗客及び積載物と共に佐世保か舞鶴に回航し、米軍当局に引き渡すこと
c.日本で逮捕された朝鮮人不法入国者を全てコレラ検疫所に収容すること、あるいは日本に入国する者についての既存の覚書による医学上の処置を行なわなければならない検疫官の許可を得たのちに、彼らを鉄道で佐世保引揚援護局に輸送すること
d.朝鮮人不法入国者は、この目的のために指定された船舶で佐世保引揚援護局から送還されること
e.朝鮮人不法入国者を輸送する列車及び送還船舶への添乗警備に日本警察官を提供すること


写経屋の覚書-フェイト「次官会議決定に『尚軍事裁判により、追放の言渡しがあり、且つその執行を警察に於てなすべき指令があつた場合、その身柄は直接日本側に引渡し、解放民族等の関係団体には引渡さざる様』ってあるけど、『解放民族等の関係団体』って在日本朝鮮人連盟(朝連)や朝鮮建国促進青年同盟(建青)などのことと考えていいんだよね?」

写経屋の覚書-なのは「うん。要するに朝鮮人の処分執行に朝連・建青等を関与させないってことなんだよね」

写経屋の覚書-はやて「逆に言うたら、逮捕されて追放処分を受けるはずの朝鮮人が朝連・建青等に引渡されてまう事例が結構あったんやろね」

写経屋の覚書-フェイト「朝連の計画送還への関与や警察権類似行為を禁止する指令もあったよね?」

写経屋の覚書-なのは「計画送還への関与を禁止したのは1946(昭和21)年6月20付のSCAPIN927/1 Repatriation:送還だね」

12 1/4.Under this plan it is the responsibility of this Imperial Japanese Government to plan and implement the repatriation of Korean nationals from Japan to Korea. This responsibility will not be delegated wholly or in part to any of the various Korean associations or societies.

12 1/4.本計画に従っての日本から朝鮮への朝鮮人送還の計画及び実行は日本政府の責任である。この責任は全くまたはある程度、あらゆる朝鮮人の団体及び集団に委任されない

写経屋の覚書-はやて「警察権類似行為をしとった『自治隊』『保安隊』の解散に関しては『朝鮮進駐軍』動画テキストの検証(4)で見たんやったなぁ」

写経屋の覚書-なのは「朝連自治隊の警察権類似行為については『日本警察も容認していた』なんていう言説もあるんだけど、これはまた別の機会に取り上げるね」

写経屋の覚書-フェイト「『尚従来長崎県針尾収容所に於て、現地軍により、往々釈放された事例等があつて、密入国者取締に支障を来してゐる向もある』って、針尾の連合軍官憲にそんな権限があるの?」

写経屋の覚書-はやて「逮捕された現地で連合軍官憲が身柄を受け取って取り調べて追放ちゅう処分にしとるのに、その決定を変更できる権限が針尾の権限者にあるん?」

写経屋の覚書-なのは「逮捕された現地で処分を決定する地方軍政部の権限者と、針尾の権限者の権限地位が同等か針尾の方が格上なんだろうかなぁ…ともかく、処分が覆らないように、現地軍権限者のサインをした理由書を提出して、処分の正当性を確認させるようにしたってことだよ」

写経屋の覚書-はやて「『現地に於て釈放される虞れある者については、特に詳細なる書面を作成』ってあるけど、悪意を以て解釈して『不当な逮捕によって追放となった朝鮮人が釈放されるのを防ぐために書類を作り、現地軍政官にも責任を負わせるように画策した』なんて言う人がおるかもしれへんねぇ」

写経屋の覚書-フェイト「朝鮮人側から釈放の嘆願があって針尾の現地軍が釈放を命じた場合は、その人が逮捕された府県に照会して、逮捕・取調についての事情を確認してから釈放するかどうか決定するって手順にするんだね」

写経屋の覚書-はやて「朝鮮人側が直接連合軍側に働きかけた結果、釈放の指示が出た場合でも、それをそのまま通さないようにしたんやね」

写経屋の覚書-なのは「これも悪意を以て解釈して『日本官憲が在日朝鮮人に対する政策・処遇について、連合軍の指令処置に容喙しその権限を拡大していく過程であり、朝鮮人の犯罪を大々的に誇張して取り上げ犯罪民族であるかのように宣伝したのと関係がある』なんて言い出すかもね。じゃ、今回はここまでにするね」

写経屋の覚書-はやて「ほとんど本文進まへんかったねぇw」

戦後の不法入国者(1)