写経屋の覚書-なのは「さ、テキストB1検証の続きだよ」

警察が襲撃されること頻りで、署長が叩きのめされたり、捜査主任が手錠を賭けられ半殺しにされるぐらいは珍しからず 上野で朝鮮人経営の焼肉屋へ國税局査察部が査察に行った際、大金庫を開けて手を入れた瞬間を狙って二十人ぐらいで一斉に金庫の扉を押したものだから査察官は腕を切断されてしまった

(録取者註 當時は警察署が襲撃される事が珍しくなく、第三國人の來襲によって犯人を奪還された富坂警察署事件、ついでに警官が殺された澁谷警察署事件、共産党が大群で警察署を包囲し外部との聯絡を遮断「攻城戦」に出た平警察署事件等、枚擧に暇有りませんでした)

写経屋の覚書-はやて「…国税局査察部の話、えげつないんけど、裏付け取れるん?」

写経屋の覚書-なのは「日時も書いてないし、史料的な裏付けは取れなかったよ。朝鮮人の酒類密造臨検に参加した税務官が逆恨みを受けて殺害された事件なら確認できるんだけどね」

「酒類密造者取締りによる殉職についての大蔵省発表」1947年7月4日付
今般川崎市桜本町において酒類の大量密造をしている朝鮮人の集団部落に対して、去月二十三日第八軍当局の応援を得て、横浜検察庁検事指揮の下に、多数の税務官及び警察官吏がその部落を臨検し、密造酒類約八十石、原料の米・麦・麹等十数石、蒸留設備その他、多数を差押えるとともに、犯罪嫌疑者百余名を検束したが、右臨検に参加し抜群の活躍をして後帰宅の途にあった神奈川税務署間税課長端山豊蔵氏は、京浜線川崎駅前で数名の暴漢におそはれ、全身に数ヶ所の傷をうけ、直ちに川崎市立病院に運び入れたが、内出血のため腹膜炎を併発し遂に二十六日職にたをれた。(後略)

大蔵省財政史室『昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻』(東洋経済新報社 1981)p1109

写経屋の覚書-フェイト「ってことは、あり得ない話じゃないって程度だね。冨坂警察署襲撃事件と渋谷警察署襲撃事件については『朝鮮進駐軍』初出テキトの検証(2)で触れているからいいけど、平警察署事件って何なの?」

写経屋の覚書-なのは「えっとね、1949(昭和24)年6月30日、平市警察署長が、日本共産党や労働組合に道路わきの掲示板が交通の邪魔になってしまうから撤去移転するように要求したの。そしたら、共産党地区委員長、在日本朝鮮人連盟(朝連)支部長、各労組幹部たちが平市警察署に来て抗議と撤回を要求して交渉したんだけど、結局、棍棒を持った共産党員たち150人が投石して署内に乱入して什器を破壊し、7時間制圧したって事件なんだよ。詳細については『平騒擾事件の全貌』(国家地方警察本部刑事部捜査課 1953)という報告書があるんだよ」

写経屋の覚書-はやて「『攻城戦』っちゅう表現も大げさ(ちゃ)うわなぁ」

写経屋の覚書-なのは「ただね、性質が違うんだよね。平騒擾事件は日本共産党の関わっている所謂『政治闘争』の一つなんだし、単純に朝鮮人の集団不法行為って捉えるのは妥当じゃないよねぇ」

写経屋の覚書-フェイト「どういうこと?」

写経屋の覚書-なのは「いずれ詳しく説明することになるから、ここでは大まかに言っておくね。警察署が襲撃される事件について終戦直後から1947年あたりまでは刑法事犯・経済事犯の容疑で逮捕された朝鮮人の釈放や、没収された闇物資の奪還を目的とした襲撃が多いの」

写経屋の覚書-フェイト「冨坂警察署襲撃事件と渋谷警察署襲撃事件がいい例なんだね」

写経屋の覚書-なのは「うん。それ以降、特に1950(昭和25)~52(昭和27)年は、旧朝連・旧民青・民戦など左翼的団体の朝鮮人が日本共産党といっしょに反政府闘争・共産主義革命運動、あるいは北朝鮮支援・韓国攻撃行為の一環として警察署を襲撃したり、犯罪者の韓国への送還拒否・生活権擁護を訴える闘争として押しかけて集団抗議したりしてるんだよ」

写経屋の覚書-はやて「当時の日本共産党は徳田球一がリーダー格で暴力革命路線とってたもんなぁ…国会に議席持っとる政党が非合法な闘争をやるいうんもよぉわからん話やけど」

写経屋の覚書-なのは「山村工作隊とか中核自衛隊を作ってね。その結果が破壊活動防止法制定と国会議員全員落選なんだよね」

斯うして利根川水系流域一帯の牛は皆、不逞鮮人に盗まれ、殺され、闇市で賣られた この辺へも、新聞紙に包んだ肉塊を賣りに來たものだ 上流で屠殺した牛を、其儘下流へ賣りに來たのだらう

家畜相手ならまだしも、人間に對しても、關東以西の大都市を中心に、日本中に灰神楽が立つやうな勢で数多犯罪を重ねた 川崎、濱松、大阪、神戸などが酷かった

写経屋の覚書-フェイト「B0だと、牛肉を売りに来るって話と川崎・浜松・大阪・神戸って地名は出てこなかったね。これって聞き取りってかたちなんでしょ?こういう後から記述を追加するのっておかしくないのかな?」

写経屋の覚書-はやて「聞き取り者がちゃんと聞き取ったんやけど、テキストB0作成する時に書くの忘れてもおて、B1作成する時に思い出して追加したんかもしれへんで…と思たんやけどそれにしては追加部分が多すぎるなぁ。勝手に付け加えたん(ちゃ)うかと(うたぐ)るで」

写経屋の覚書-なのは「次は鳩山一郎の話なんだけど、内容は変わらず修飾語が追加されてる程度なんで省略するね」

直後に總理大臣に成る程の大物でも如斯 況や庶民に於てをや 土地も屋敷も物資も操も、奪ひ放題であった 闇、賭博、傷害、強盗事件が多く、殊には、空襲や疎開で一時的に空いてゐる土地が片端から強奪された 今、朝鮮人が駅前の一等地でパチンコ屋や焼肉屋を営業してゐるのは、皆、あの時奪った罹災者の土地だ


写経屋の覚書-はやて「あれ?『今、朝鮮人が駅前の一等地でパチンコ屋や焼肉屋を営業してゐるのは、皆、あの時奪った罹災者の土地だ』って追加部分、なんか見覚えあるで…あ!テキストAの『現在駅前一等地で朝鮮人が営業してるパチンコ屋、焼肉屋は斯る來歴のものです』と(おんな)しなん(ちゃ)うん?!」

写経屋の覚書-フェイト「まさかとは思うけど、聞き書きに自分の記述を混入してるのかな?もしそうだとしたら、原典史料の改竄になるよ…これってやっちゃいけないことだよね…」

写経屋の覚書-なのは「うん。『朝鮮進駐軍』初出テキストの検証(4)の最後で「事実関係について明らかにまちがっている認識が出てきても、発言を改竄せずそのまま記録するっていうのはいいことなんだけど、それなら注釈のかたちでツッコミ入れたり訂正や補足の説明をしたらいいよね」って言ったのと関連してくるんだけど、注釈どころか自分の記述を混入するっていうのは最悪の所業なんだよ」

其でも警察は手が出せなかった 歴代總理大臣等が絞首刑になって行く状況で、警察如きに何が出來よう まこと、敗戦はかなしからずや

写経屋の覚書-フェイト「…テキストA・B0検証でも見たけど、警察は警察権・司法権の不明確な状況で困りながら、不徹底だけども取締りを行おうとしてたよね。これはおかしいよ」

写経屋の覚書-なのは「うん、おかしいんだよ。それに『歴代總理大臣等が絞首刑になって行く』っていうのは、極東軍事裁判の東条英機・広田弘毅たちの死刑判決と執行のことだと思うんだけど、警察の行動に何の関係もない話だし、主観的な感想でしかないよね」

 堪りかねた警察が密かにやくざに頼み込み「濱松大戦争」になった訳だが、「小戦争」は日本中に頻發した
最後の頼みの綱は聯合國軍であったが、遂には其憲兵隊でも手に負へぬ非常事態に立ち至った

其で流石に米軍も腹に据えかね、日本本土全域の占領を担當してゐた米第八軍司令官アイケルバーガー中將が、關東と言はず關西と言はず、はたまた北九州と言はず、不逞鮮人活動地域に正規戦闘部隊の大軍を出動させ、街頭に布陣して簡易陣地を築き、重装甲車両を並べ、人の背丈程に大きな重機關銃を構へて不逞鮮人にピタリと狙ひをつけ、漸く鎮圧した 我々は其火器の煌めきを間近に見た

写経屋の覚書-はやて「こんな事態あらへんかったって、『朝鮮進駐軍』初出テキストの検証(4)でも見たやんなぁ。しかもそのあり得へん事態に対して『我々は其火器の煌めきを間近に見た』なんてウソ臭さ満載やで。まるで講釈師やがな」

写経屋の覚書-なのは「はっきり言って、こういうところを見て作者はこの史料の信頼度を下げているんだよねぇ…テキストB1についてはこれでおしまい。テキストB2については、朝鮮人に関する記述がテキストB1とほぼ同じだし検証は省略するね。っと、一か所大きな追加部分があったよ」

其でも警察は手が出せなかった 歴代總理大臣等が絞首刑になって行く状況で、警察如きに何が出來よう 或日、警察は何月何日を以て廃止す、再び登庁するを許さず、と命ぜられれば、其切り警察は消滅する 七百萬の大軍を擁した彼の帝國陸海軍ですら、左様にして両總長 両大臣以下、自然廃官になった まこと、敗戦はかなしからずや

写経屋の覚書-はやて「…無知いうかヨタやんなぁ…正味の話、主観的な感想でしかあれへんわ…」

写経屋の覚書-フェイト「次はどうするの?」

写経屋の覚書-なのは「テキストA・B0・B1・B2の形式について考察してみるね。そういうわけで今回はここまでにするね」

映画『残侠』―『朝鮮進駐軍』検証―
『朝鮮進駐軍』の初出について(1)
『朝鮮進駐軍』の初出について(2)
『朝鮮進駐軍』の初出について(3)
『朝鮮進駐軍』の初出について(4)
『朝鮮進駐軍』初出テキストの検証(1)
『朝鮮進駐軍』初出テキストの検証(2)
『朝鮮進駐軍』初出テキストの検証(3)
『朝鮮進駐軍』初出テキストの検証(4)
『朝鮮進駐軍』初出テキストの検証(5)