聴こえて来たのは君の歌。
思わずしぼっていたボリュームボタンを回す。
切なく囁くような愛の歌に、鼓膜が揺れた。
隣で聴いていた頃から、ずっと君の声が好きだった。
歌の上手い人は五万といるけれど、僕の心を震わせるのは君だった。
だった。
過去形なのは、ここしばらく君の歌を聴けてなかったからだ。
でも、ラジオから流れてきた君の歌に、今もやっぱり君の歌が好きだと思い知らされた。
胸の深いところを突かれるような、そんな感覚。
虚勢を張って生きてきた自分が瞬時に消え去り、君に甘えていた僕がひょっこり現れた。
君に頼り、頼られていた日々。
僕らは二人でひとつだった。
側にいるのが当然で、君と離れるなんて考えたこともなかった。
君の歌が終わる。
ラジオのボリュームを最大にしても、君はそこから飛び出してきてはくれない。
僕は泣いた。
ラジオを抱えて。
君の歌を僕の中に取り込もうと、強く抱き締めながら。
ラジオよ。
後生だから、もう少しだけ彼の歌を聴かせて。
僕の涙が枯れるまで。
