「このままずっとこうしていたいな」
俺の腕の中で、咲也が呟く。
愛し合った後の、気だるい時間。
陽はまだ中天にある。
「いいよ、ずっとこのままでいようよ。咲也を離さないよ」
「ほんと?」
「もちろん」
「僕、こう見えて、すごく嫉妬深いよ」
「ほんと?」
「うん」
「嬉しいな」
「ほんと?」
「うん」
「泉を縛り付けても?」
「うん。実は俺も嫉妬深いし」
「ほんと?」
「うん」
「嬉しいな」
「ほんと?」
「うん」
真顔で会話していた二人が同時に吹き出した。
はたから見たら馬鹿馬鹿しい会話も、恋人同士には幸せな時だ。
咲也を引き寄せ、柔らかい髪に唇を押し付けキスをした。
「咲の名前を始めて知った時、とっても合ってると思ったんだ」
「何で?」
「咲は笑顔が素敵だから」
「僕の名前を決める時、僕はずっと笑ってたんだって。だから、この名前に決めたって」
「咲也の親の気持ちが分かるよ。いい名前だよ」
「でも、女みたいだろ」
「読み方はそうでも、咲にぴったりだよ。それに俺にしか呼ばせないだろ」
「うん。ねっ、泉、諱って知ってる?」
「何、それ」
「本当の名前。だけど、人には呼ばせない名前。そうだな、例えて言うなら、神様に名乗る名前ってとこかな。だから、親でも呼べないんだ」
「そっか、でも、俺は呼ぶよ。だって、これは神の領域だろ?」
「あっ、いずみ・・・」
咲也をまたベッドに押し倒すと、体を重ねた。
愛し合うことは、神の領域。
だから、俺は愛し合う時は、咲也の本当の名前を呼ぶ。
「咲」は「わらう」とも読む。
咲也の本当の名前は「花が咲くように笑う」と言う意味から名付けられた。
咲也の周りにはいつも笑顔の花が咲くように。
「咲」を「ハナ」と呼び変えて。
「ハナ」
「いずみ」
「愛してる」
いつまでも君の名前を呼び続けるよ。
終わり。
皆様、長らくお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
「君の名前を呼びたくて」完結でございます。
初めてのオリジナルBL小説でしたが、楽しんで頂けましたでしょうか。
初めはさらっと終わるつもりだったのに、あれよあれよと怪しい部分に突入し、まんまと弾かれてしまいました。
でも、おかげでよーく分かりました。
表でも、裏でも弾かれるものは弾かれるって(-"-)
じゃあ、裏で書くことないじゃん←
でも、まあ、表で書くのはやはりある程度までにしたいと思います。
だって、やっぱり実名報道でいきたいから←ユスとか
と言いつつ、裏で止まったままのユス小説があるので、そちらを完結させたいと思います。
では、またお会い出来る日を楽しみに、腐菌を育てて参りたいと思います。
それから、作中で出て来た「諱(いみな)」の意味ですが、じゅんじゅん的意訳となっております。
古来、中国では他人の名を口に出すことは相手を侮辱する行為とされていました。
なので、通常呼ばれる名前いわゆる通称は「字(あざな)」と言い、その字で呼ばれていました。
ざっくりした説明ですが、そんな訳で、咲也は字。咲(ハナ)は諱として書いてみました。
本当の名前、本当の姿、本当の気持ち。
人はたくさんの本当を抱えています。
自分さえも知らない「諱」を持って、その名をいつか呼ばれるのを待っているのかも知れませんね。
その名を呼ばれるように、これからもたくさんの奇跡の出会いが君にありますように。
じゅんじゅん