【一口馬主】日本の血統分布とこれから【For 血統初心者】 | バッタの一口馬主データ分析室

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概要

 競馬の血統について、最低限の知識をざっと解説し、その後、日本の血統分布をまとめたうえで、今後の日本競馬の展望を妄想してみた。

 

・大系統とそのざっくりとした特徴

・日本の血統分布

・今後の日本競馬の展望

 

 血統を知らない頃にこういう記事があればよかったなというものを書いたつもりです。

 細かくつきつめればいくらでも細かくできるのが血統ですが、今回はざっくり解説ということで世界的に重要な種牡馬でも日本競馬にあまりかかわりがない場合はカットしています。

 血統を全く知らないという人を念頭に説明しているので、血統を知らないという人にこそ読んでほしいです!

 来年、再来年と続く、社台SSの輸入種牡馬ラッシュの背景事情についてもできる限り分かりやすく書いたつもりなので来年からの予習にどうぞ。

 

※本当はミスプロやサドラーからの派生などはもっと細かく記載したかったのですが、それらの派生は日本競馬にはあまり関係ないので今回は記載していません。あくまで血統初心者向けに、日本競馬にかかわりの深い最低限レベルの種牡馬しか挙げていません。

 

四大系統

 血統は超偉大な大種牡馬を大系統、その大種牡馬から生まれた活躍馬を多数出した種牡馬を小系統として、大まかな特徴を分析していきます。
 現在競走馬として走っている90%以上の馬が、以下の四つの大系統のいずれかに属しています。
 ノーザンダンサー系
 ターントゥ系
 ミスタープロスペクター系
 ナスルーラ系
 もちろん、この大系統の分け方は色々あって、たとえばサンデーサイレンス系をターントゥ系から独立させたり、サドラーズウェルズ系をノーザンダンサー系から独立させたり、色々です。
 今回は、わかりやすさ重視で、一番大きなくくりで大系統をまとめました。
 どの馬も50年以上昔の種牡馬ですので、それぞれの大系統の中でも小系統によって細かく適性が分かれており、もはやこの四つの大系統の分類に意味はないという考え方もありますが、今でもざっくりとした特徴をつかむには悪くない分類です。
 では、それぞれの系統の超ざっくりとした特徴を見ていきましょう。
 

欧州の主流血統 ノーザンダンサー系

 スタミナとパワーが豊富と紹介されることが多いが、細かく分化しており、それぞれのサイアーラインによって特徴が大きく異なる。
 芝もダートも、短距離も長距離もすべてをこなせる世界最大の系統。
 しかし、後述の通り日本では父系は発展していない。
 

日本の主流血統 ターントゥ系

 日本の芝に高い適性を持つ系統。 サンデーサイレンス(父父父ターントゥ)により日本で圧倒的な勢力を築く。

 社台が断固としてサンデーサイレンス系の有力どころを海外輸出しなかったので日本以外に広がりを見せていなかったが、近年は海外の生産者の手によって、ディープインパクトに海外の有力繁殖をつけるということが盛んにおこなわれ、相当な成果をあげており(サクソンウォーリア、スノーフォールなど)、今後世界へと広がりを見せるかもしれない。
 

米国の主流血統 ミスタープロスペクター系統

 本質的にはダート血統だが、一部の系統は芝もこなし、欧州にも勢力を広げている。
 日本に入ってくるのは基本的に芝をこなす系統。
 日本ではキングカメハメハが血を広め、ターントゥ系と二大勢力を形成している。
 

米国の主流血統 ナスルーラ系

 スピードの持続力に優れ、本質的にはマイル以下の距離を得意とする系統が多いが、母系からスタミナを補って中長距離を得意とする系統もある。
 かつては日本の芝に適性が高いということで盛んに種牡馬が輸入されてきたが、サンデーサイレンスに駆逐され、日本ゆかりのナスルーラ系はほぼ壊滅している。
 欧州でもかなりの勢力を保っていたが、現在は衰退気味。
 今のナスルーラ系の主流はタピットに連なるシアトルスルー系で、主に米国のダートで活躍馬を多数出している。

 

日本の血統分布

ターントゥ系の天下

 日本は世界でも珍しく、ターントゥ系が大きく幅を利かせている。
 1991年に導入されたサンデーサイレンスが、それまでの日本の血統勢力図を根底から覆し、日本の競馬界をターントゥ系に染め上げた。
 ターントゥ系は、ロベルトを通じる系統も結果を残しており、ブライアンズタイムが種牡馬としての一定の成果を残し、シンボリクリスエスとグラスワンダーは圧倒的な競争能力でG1を席巻した。
 シンボリクリスエスの血はエピファネイアを通じて、グラスワンダーの血はモーリスを通じてサンデーサイレンス系とは別のターントゥ系として残っている。
 
★日本とかかわりの深い小系統
〇サンデーサイレンス系
 芝中長距離
 サンデーサイレンス→ディープインパクト→コントレイル、キズナ、シルバーステート
 サンデーサイレンス→ブラックタイド→キタサンブラック
 サンデーサイレンス→ステイゴールド→オルフェーヴル、ゴールドシップ
〇ロベルト系
 芝中距離
 シンボリクリスエス(父父ロベルト)→エピファネイア
 グラスワンダー(父父ロベルト)→スクリーンヒーロー→モーリス
 

対抗するミスタープロスペクター系

 日本でターントゥ系に唯一対抗できているのがミスタープロスペクター系の小系統キングマンボ系のキングカメハメハ。

 キングマンボ系以外のミスタープロスペクター系は単発的に輸入されるのみで、発展するには至っていない。 

 キングマンボ系は父サンデーサイレンスの牝馬につけることが出来るという優位性を活かして勢力を伸ばした。

 キングカメハメハがいなければ日本競馬が血統の袋小路につきあたるのは10年早まったはず。
 日本でサンデーサイレンスの次に偉大な種牡馬だと思う。
 
★日本とかかわりの深い小系統
〇キングマンボ系
 芝中距離
 キングカメハメハ→ロードカナロア、サートゥルナーリア、レイデオロ
 他にもキングカメハメハを経ないキングマンボ系としてエイシンフラッシュがいる
 凱旋門賞を取ったワークフォースが輸入されたが大失敗をかます
〇シーキングザゴールド系
 芝ダート兼用短中距離
 ドバウィを通じて世界に勢力を広げる
 日本ではドバウィ直仔のマクフィが成功の兆し
〇その他
 ファピアノ系、ウッドマン系、ゴーンウェスト系、フォーティーナイナー系など多数に分化して勢力を伸ばしているが日本に輸入されるケースは少数
 

父系としては厳しいノーザンダンサー系とナスルーラ系

 世界では大繁栄しているノーザンダンサー系だが、日本では苦戦を強いられている。

 ノーザンダンサー系の芝系統は、かつては日本でもノーザンテーストが一大勢力を築いたが、サンデーサイレンスに駆逐された。その後も、ラムタラ、オペラハウスをはじめ、有力なノーザンダンサー系の芝種牡馬が輸入されたが、父系はつながらなかった。社台が導入したハービンジャーも微妙な結果に終わりそうで、父系としてのノーザンダンサー系は日本では厳しい立ち位置。

 ノーザンダンサー系のダート系統は、デピュティミニスター系、ストームキャット系が一定の成果は残しているものの、父系として残るかは疑問。

 

 ナスルーラ系は、かつては日本でもテスコボーイ、アローエクスプレス、トニービンなど輸入種牡馬が勢力を築いていたが、これもサンデーサイレンスにほぼ駆逐された。現在はテスコボーイから連なるサクラバクシンオーの仔がわずかに残っているほか、ダート種牡馬として輸入種牡馬が数頭いるのみとなった。

 

 このように日本においてノーザンダンサー系とナスルーラ系は、父系としては発展していない。

 もっとも、日本の牝系を語る上で欠かせず、ノーザンダンサー系とナスルーラ系は、母の父として影響力を有している。

 
★日本とかかわりの深い小系統
①ノーザンダンサー系
〇サドラーズウェルズ系
 芝中長距離
 サドラーズウェルズ→ガリレオ→フランケル
 欧州の中心血統だが、日本との相性は最悪レベル。
 唯一フランケルがソウルスターリングで結果を出す
〇ストームキャット系
 芝ダート兼用中距離
 ドレフォン、ディスクリートキャット、ヘニーヒューズなど
 ノーザンダンサー系の中では日本と比較的相性がいい小系統
〇デピュティミニスター(ヴァイスリージェント)系
 ダート短中距離
 フレンチデピュティ→クロフネ
〇ダンジグ系
 本質は短距離早熟血統だが、牝系のよさを活かす系統で細かく分化。
 デインヒル系のハービンジャー
 ウォーフロント系のアメリカンペイトリオット、デクラレーションオブウォー、ザファクター
 

②ナスルーラ系

〇シアトルスルー系
 ダート短中距離
 エーピーインディ、タピットを経て米国で一大勢力に
 シニスターミニスター、パイロが属する
〇グレイソヴリン系
 芝ダート兼用中距離

 衰退一途だったが、米国で復権

〇テスコボーイ系

 芝短距離

 日本ゆかりのナスルーラ系

 テスコボーイ→サクラユタカオー→サクラバクシンオーとつないできたが、父系断絶は避けられないか。ビッグアーサーにはがんばってほしいところ。

 

これからの日本競馬の血統図

 1991年にサンデーサイレンスが輸入されて以来、日本にはサンデーサイレンスとその仔ディープインパクトという圧倒的な産駒成績を誇る種牡馬がおり、この2頭のバトンリレーで輸入種牡馬を駆逐してきた。

 しかし、ディープの死亡により、圧倒的な成績を誇る種牡馬はいなくなり、そして日本はサンデーサイレンスの血であふれかえっている。

 つまり、非サンデー、非キンカメの血の必要性が高まり、かつ、絶対的な種牡馬がいなくなったことで、海外種牡馬が入るスキが出来ているというのがポストディープ時代の特徴といえる。


 これまで、社台グループは、チチカステナンゴ(グレイソヴリン系)、ノヴェリスト(マイナー系統)、ワークフォース(キングマンボ系)、ハービンジャー(デインヒル系)など、優秀なクッションを求めて海外産の種牡馬を導入してきた。

 しかし、ハービンジャ―がそこそこの成果を挙げるのみで、その他は父系どころか母の父として残るかも微妙な状況。

 これには様々な要因があると思うが、社台が本腰を入れていなかったというのが大きな要因の一つだと思われる。

 社台はディープ、キンカメという大種牡馬を抱え、それに輸入繁殖牝馬につけておけばセレクトセールで丸儲けだった。目の前に落ちている大金を捨てて、成功するかもわからない海外種牡馬に良繁殖を回すというのはやはり難しく、ディープ、キンカメが存命のうちは、海外種牡馬の成功を急ぐ動機はそれほど強くはなかったのだろう。

 しかし、ディープ、キンカメがいなくなり、そろそろ本気でクッション種牡馬を自前で用意する必要性が出てきるとともに、二大巨頭がいなくなったことで優秀な繁殖牝馬を海外種牡馬に回す、ある種の余裕が出てきた。

 さすがにリーディングサイアーを取るような第二のサンデーサイレンスが現れるとは思わないが、海外種牡馬が上位に食い込む活躍できる土壌は揃いつつある。

 今、日本競馬は、「優秀なクッション」を求めている。

 

 実際にこの状況は海外種牡馬の導入ペースにも表れている。

 これまで社台SSの外国種牡馬の導入ペースは、3年に1頭でも多い方だった。

 しかし、18年にドレフォンが導入された後、ディープとキンカメがこの世を去り、それから社台はマインドユアビスケッツ(19年輸入)、ブリックスアンドモルタル(20年輸入)、ニューイヤーズデイ(20年輸入)、ナダル(21年輸入)、シスキン(21年輸入)、ポエティックフレア(22年輸入)と超ハイペースで海外の新種牡馬を導入している。

 日高も2019年に、世界的名馬のカリフォルニアクロームを導入した(ラムタラのにおいがするが)。

 これらの種牡馬の産駒は、来年からが本格始動となるので、来年以降の一口選びにはこれらのクッション種牡馬の産駒と必然的に直面することになる。


 サンデー、キンカメの血を持つ馬同士の次世代種牡馬リーディング争いも見逃せないが、海外産種牡馬の「優秀なクッション」争いも見逃せないのがポストディープ時代の日本競馬。

 皆さんはどのクッションがお好みだろうか。

 次回は、新規海外種牡馬の血統を概観してみたい。