「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」 トミー・リー・ジョーンズ監督



素晴らしい現代版の西部劇だと思います。

西部劇は、なんだか見ていてホッとする部分があると考えています。

雄大な自然、土ぼこり、馬、ジーンズ、拳銃、ウェスタンハットと、

出てくる背景や小道具は素朴なものばかり。

素朴な素材ばかりの中で、人間性が浮き彫りになってくる。

現代社会を包囲するがんじがらめのルールがここでは一時的に

脇に追いやられます。


その分、当事者以外誰も見ていないという状況の中で、

気分次第で銃がぶっ放されるという、命丸出しの物語が展開され、

空恐ろしいものも感じてしまう、

そのあたりが西部劇の魅力だと感じています。


本作品も、アメリカとメキシコという国境を巡る大きなルールが存在し、

それを抑圧材料として物語はスタートしますが、

いざメキシコへの旅が始まると、トミーリージョーンズ扮する主人公の

独断的で英雄的なルールによって国境警備員の運命は流されていきます。


とにかく無骨な男たちの物語。

それをとりまく女性たちが、

男のかっこよさと愚かさを浮きぼらせていく

という脚本はとても素晴らしい。

飽きのこないロードムービー。


それには、トミーの渋い髭面が大きく貢献しています。

こんな爺さんになれたらいいなー。

この映画でのトミーは、コメディカルな部分も含めて

めちゃくちゃカッコイイです。


弔いと復讐、贖いと償いをこのような形で映像化してしまう

脚本、演出には舌を巻かざるを得ない。

一つの死を、ここまで見つめることができるのであれば、

争いといったものはある程度抑制が効くのではないかという

幻想すらも抱いてしまう、美しい映画であった。



cozy

CQ  ローマン・コッポラ監督作


1960年代、突然映画監督の大役が舞い込んできた青年の奮闘と、恋を描く

ミニシアター系の作品です。


この映画の魅力は、なんといっても「ドラゴンフライ」という劇中映画。

『2001年宇宙の旅』を思わせるB級SF映画が完成されるまでの過程が、

青年の葛藤とともに描かれるのですが、主演女優がたまらん美人。

女スパイ「ドラゴンフライ」役も妖艶でセクシーだけれど、

女優ヴァレンタインとしての彼女の魅力はやばいです。

「猫がしゃべれますように」

というせりふには悶絶寸前。こんなかわいい娘が世の中には存在するんだな。


60年代風のポップなBGMと、チープで近未来的なセットが当時の空気感を

かっこいい形で提示され、心躍る。


しかしながら、『CQ』を一本の映画として観てみると、どうにもよく分からん作品に

なってしまっているのではないかなーと少し残念な気分になった。

映画制作者の葛藤や、フィルムの編集シーンなんかは興味深く見れたのですが、

結局辿りついた答えは、脚本のテクニック的な回答に過ぎないし、

主人公の青年が延々と葛藤し続けたわりには、中身が薄いな~というのが

正直なところ。

彼の自主制作映画のほうもまあまあなわけで、結局なんだったのさ

という疑問は若干残ってしまうのです。


ただ、この映画の雰囲気とか世界観といったものはヨーロッパの実力派俳優が

多数出演していたということもあって、堪能するに足る作品だと思います。


そういや高校時代に始めてミニシアターで映画を観た時(三宮で『ピンポン』を鑑賞)

に予告編として流れていたんです、この『CQ』。

なんかアバンギャルドな世界を体現している憧れの作品として

印象深かったのを覚えておりますな。


まあそういう「セクシーでカッコイイ」という感覚は楽しむことができたので

満足としておきましょう。



cozy




「ラッシュライフ」 伊坂幸太郎



伊坂幸太郎作品が立て続けに映画になりますね。


『陽気なギャングが世界を回す』

『アヒルと鴨のコインロッカー』

『死神の精度』


と映画化されていたのですが、新たに


『重力ピエロ』と『ラッシュライフ』


が公開を控えています。


むべなるかな。

彼の作品には「映画」を感じる部分が多々あります。

多くの映画関係者たちが彼の作品の中から映画的なものを感じ取り、

映画にしたいという欲求を抱えてきたのでしょう。



しかし、やはり彼は「小説家」であると思うんです。

映画では描けないものをしっかり小説で描いている。


たとえば、彼の紡ぎだす魅力的な会話の数々。

基本的に、彼の小説中の会話を映画脚本に置き換えることは

困難だと思われる。

映画でやるには、少し長すぎる。

たぶん、退屈な会話の応酬になってしまう。

たぶん。

しかし、小説で「書き言葉」として読む分には、とてもスムーズで

多くの意味と含蓄があることを実感することができる。


初期作品ということで、若干物足りない部分はあります。

少し説明過多に思える部分もあります。

しかしながら、彼の人間観察の確かさと、

豊富な物語世界の奔流には、ひたすら身をゆだねる快感があります。



今作品では、「神」に関する考察が興味深いです。

これも会話の中でじっくりとその考察が描かれていく。

「神」は人として、蚊として、腸として隠喩され、会話の中で

巧みに姿を変えて形づけられていく。


そして、そこで出た「神」に関する「定義」が、物語全体を貫いて

登場人物たちが共鳴しているように感じるのです。


個々の物語に深入りするもよし、

物語通しの連関に思いをはせるもよし、

全体に通低するテーマを俯瞰するもよし、

楽しみ方が多層に存在するのも伊坂氏の才能ですな。


こうなると映画版が楽しみですね。

個人的には、『エレファント』のような演出、編集技法を利用すれば

かなりいい感じになるのではないかと感じました。

さて、公開作はいかがなものか。

原作ファンとして映画館に足を運んでみようと思います。



cozy