表題の「ゴールデン・マン」を含む7篇が収録された短編集です。
分類としてはファンタジーの「妖精の王」や「ふとした表紙に」などユニークな作品もあり、またあの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の元となった「小さな黒い箱」も収められています。
アマゾンのを貼ってみましたが、これはもう中古しかないみたいですね。
ちなみに私が持っているのは古いバージョンのこれ。
おばちゃんこういう方が落ち着くわ〜。
今回ちょっと語りたいのは本編の方ではなく、ディック本人のまえがきについてです。
なので本編のネタバレはありませんが、まえがきはについては引用したりもしますので、未読の方はお気を付け下さい。
本好きな人なら忘れられないフレーズや文章、セリフなんかがあると思いますが、私がふとした時に浮かんでくるのは、この本のまえがきの文章です。
このまえがきはディックの貧乏時代のことやハーラン・エリスン、ロバート・ハインラインといった同業者たちとのこと、うまくいかなかった結婚生活のこと、さらに仏教、哲学について、盛りだくさんで濃い内容、それがカジュアルな書き方で読みやすく、とにかく面白すぎる!
レナード・ニモイのところはいつ読んでも笑ってしまいます。
訳の感じもすごくいいです。
軽快でリズムがよくて、すらすらっと読めます。
この名訳のおかげで、いくつも心に残る文章があるのですが、まずはこれ。
「わかってる、自分の基準を修正すべきなんだろうさ」
現実の理不尽さに怒りを覚え、自分の架空の世界を書くというディック。
現実の世界はわたしの基準に合わない、のあとの続きの文章です。
そして
「わたしは現実と折り合うべきだ。だが、一度も折り合ったことがない。SFとはそういうものなんだ。もし、きみが現実と折り合いたかったら、フィリップ・ロスを読めばいい。(中略)だが、きみはSFを読んでおり、わたしはきみのために書いている」
と続きます。
この、こっちにダイレクトに語りかけるような熱い感じ。
グッときますね〜。
きみのために書いている、という、普通だったらあまり信憑性のない言葉ですが、これは本気度100パーセントで伝わってきます。
もうひとつ、頭から離れないのがこれ。
「だから、生きぬけ。つまり、最後まで行きつくんだ。そのとき、はじめて理解ができる。途中じゃわからない」
これを最初に読んだとき、わたしは20代でした。
この文章の少し前には
「きみの危機や苦境がいつまでもつづくものではないことを教えたいからだ」
とあり、その頃まさに苦境真っ只中、住むところがなくなったと思ったら次は仕事もなくなるという状況だった私は、この部分を読んで号泣したのを覚えています。
現在40代で生活にそれほど困っているわけではない私ですが、その分、人生に倦怠感がつきまとってくるお年頃。
これから先はもう見えてるなあ、みたいな気分で日々を過ごしている時に、ふとこのディックの言葉が浮かんでくるのです。
「途中じゃわからない。」
そうか、そうやな。
ディックがそう言うなら、きっとそうなんや。
人生悟ったようなしたり顔すんのやめよう。
私ももうちょっともがいてがんばろう。
と、この言葉を思い出す度になんだか晴れやかな気分になります。
ここまで書いておいてなんですが、これぜんぜん本のレビューじゃないですね。
読んでくれた方、すいません、そしてありがとう!

