【小説】スター・ゲートの向こうへ・3 | 沈黙こそロゴスなり

沈黙こそロゴスなり

The Message from the stars that illuminate your life.

アトランティスの滅亡により貴重な研究データの多くが失われてしまったため、スターゲート計画は、ほぼ振り出しに戻っていた。
しかもマカバフィールドは不安定ながらも消滅することなく、その形態を維持していたため、ヒビルたちには打つ手がなかったのだ。
そういうわけで、マカバを再構築する研究は放棄され、単純なスターゲートの開発だけに焦点が当てられた。

「惑星ヒビルは天国(エデン)なのだ」、サラをはじめ研究スタッフはそのように聞かされていた。スターゲートが完成することによって、人類は理想の地エデンへと自由に行き来することができる。
そこは高度な文明が発展し、病もなく、不老長寿が約束されていた。
実際のところ、半分は本当のことだった。ヒビルたちは高度な技術を持っており、病気を克服し、数万年という長い寿命を実現させていた。
しかし惑星ヒビルの荒涼として寒々しい風景は、花咲き乱れ、果実がたわわに実っているエデンのイメージとはほど遠いものだった。
そう、スターゲートの本来の目的は、ヒビルの人々を地球につれてこようとするものだったのである。

そんなことはつゆ知らず、サラをはじめとした開発スタッフは日夜研究にいそしんでいた。
当初彼らが取り組んでいたスターゲートの技術とはざっとこんな感じだった。

転送したい物体に対して、ある特殊な周波数の電磁波を照射する。
すると、照射された物体を構成する原子の振動周波数が上昇する。
周波数の上昇により、物質は一時的に非物質に変化する。
非物質状態になった段階で、特殊なマイクロ波とともに目的地に向かって発射する。
原子の振動周波数が上昇していることにより、次元のルールに捕われなくなるため、時間の概念が適用されなくなる。
こうして非物質化した物体は一瞬で転送目標地点に移動する。
転送目標地点では、送られてきたマイクロ波を特殊なアンテナで受信し、物体の再構成を行う。
受信機は特殊なフラクタル構造をした構造体で、非物質化した物体とマイクロ波はこの中に蓄積される。
特殊な電磁波を照射し、その周波数を下げて行くことで、非物質となった原子の振動は低下し、再び物体として安定する。

このようにして、簡単な物質レベルでの転送実験は成功するようになった。
しかし、この技術にはいくつかの大きな問題があった。
一つは、送信機と受信機が必要で、受信機のないところには転送できないということ。
もう一つは、もし仮に2点同時に受信し物体の再構成を行おうとすると、物質のコピーができてしまうということ。
これは逆に、コピー元となる物質の情報さえあれば、エネルギーから物質を合成できることを意味しており、これはこれで画期的な発見であったが、生物の転送においては数々の問題をはらんでいた。
そして最大の問題は、「ノイズ」と「混入」である。
転送中に何らかの障害が発生し、ノイズが発生した場合、物質を100%再構成できなくなってしまうことが判明した。
また転送中に別の物質情報が混入した場合、これも正しい形での再構成ができなくなってしまう。
無生物である物体の転送においては、多少のノイズや混入があっても、穴があいたり形が歪んでしまう程度ですむが、生物の転送においては致命的な欠陥である。

様々な実験が行われたが、この問題を100%解決することは不可能であった。
そう、彼らが取り組んでいたのは、もっと未来の技術だったのであり、彼らの優れた技術水準でも到達不可能なレベルだったのである。

しかしサラはあきらめなかった。
いや、あきらめられなかったのだ。

彼女は焦っていた。
彼女は誰よりも優秀だった。しかし彼女の寿命はどのスタッフよりも短かった。
地球人でも1000年近く生きれた時代、ネフィリムである彼女の寿命はわずか250年ほどだった。

研究をはじめて200年ほどが経過していた。
彼女は明らかに、愛するラハブよりも年をとりはじめていた。老化が早い。
「エデンへ行けば永遠の命が与えられる」
もはや初老の様相を見せ始めたサラは、自分にそう言い聞かせていた。
ラハブはそんなサラに対してどこまでも優しかった。
「サラ、たとえ君が僕より先に年をとっていったとしたも、僕の愛は変わらないよ」
「ありがとう、ラハブ。でもあなたはいまだに若々しいわ。」
実際サラはとても美しかった。たとえ年をとりはじめていたとしてもその魅力に変わりはなかった。

ザヒはそんな二人をただ見守っていた。彼は彼女を欲していた。しかしその思いを表に出すことは一度もなかった。
ザヒは幾人かの女性と結婚したが、やはりサラへの想いを捨てることはできなかった。
サラもラハブも他のスタッフから厚い信頼を寄せられていた。彼らは優秀であり、また人望が厚く、実際人格的にも優れていた。
ザヒにはそんな二人がまぶしく見えた。
そして二人の深い絆の間に、割って入ること等できないことを知っていた。

しかし、サラへの思いをあきらめることはできなかった。
彼女を振り向かせたい。
しかし、もし彼女がこのまま一生僕を見てくれないのだとしたら....

今やザヒの心の中に、「殺意」の芽が生まれようとしていた。

つづく