近年、肌のトラブルを訴える人が増加。「体質だし、乾燥肌だから仕方ない」とあきらめてしまう人も多い中、肌のトラブル、実は「体質ではなく姿勢にある」と、新たに「アトピー発症機序理論」を提唱するようになった、ナビタスクリニック川崎の皮膚科専門医、山本綾子先生(日本皮膚科学会専門医)が、さまざまな皮膚病・肌トラブルについて解説する連載。
今回は「大きくなれば良くなるから、今は仕方がない」と諦められがちな、でもとても辛そうでかわいそうな赤ちゃんや子どものアトピーについて、アトピー発症機序理論にあてはめて、考えていきます。
お父さん、お母さん自身はアトピー性皮膚炎ではないのに、生まれてきた赤ちゃんの湿疹がひどく、アトピーになってしまったという例を最近よく見ます。病院を受診するとステロイドを処方されるけれど、なかなかきれいに治らない。もしくはステロイド外用薬を中止するとすぐに湿疹をぶり返す。
こんなふうにお困りの親御さんがたくさん私の外来を受診されます。
そこで今回は「赤ちゃんアトピーを治す&予防するために大切なこと」をお話ししようと思います。
乳児湿疹がひどい赤ちゃんは、首が埋もれている!
2~3カ月ごろの赤ちゃんは、程度の差はあれ、顔や頭に脂漏(しろう)性皮膚炎と呼ばれる湿疹ができることが多いもの。普通は、きちんと石鹸を使って洗ってあげるだけで治る軽いものです(連載第4回参照)。
ところが、外来で診ていると、「普通の脂漏性皮膚炎」レベルではなく、分厚いカサブタが皮膚に付着したような状態だったり、ジュクジュクと透明あるいはやや黄色い液体=浸出液が出ていたりと、症状がひどい赤ちゃんをときどき見かけます。これは、もはや生理的現象とは言えないレベルの症状です。
そしてこうした症状が出る赤ちゃんに共通するある特徴があります。
写真の赤ちゃんは、顔だけでなく、全身がひどい状態です。特に首のあたりは、埋もれて見えなくなっています。確かに赤ちゃんは、大人に比べて首が短いものですが、ここまで埋もれてしまうと首を通る血管やリンパ管をつぶしてしまいそうですね。
別の赤ちゃんの写真も見てみましょう。
湿疹を繰り返す赤ちゃんたちの首や肩の写真です。
どの子も肩がちょっと上がって首を埋もれさせたようになっています。これはただ首が短いのではなく、肩が上がった状態で、あごと肩が首を完全に埋もれさせ、首の周囲は空気に触れなくなっています。写真の赤ちゃんたちは、多少ふくよかではありますが、肥満児というほどではありません。
こうした赤ちゃんたちは、異常に首が埋もれた状態が一日中、数カ月も続いていました。首には、大切な血管やリンパ管が通っています(連載第5回参照)。血管やリンパ管が潰された状態がずっと続けば、それらにつながる首や顔、頭の皮膚にトラブルが生じるのも当たり前に思えませんか?
実際に、首が埋もれた赤ちゃんたちの体幹はどうなっているのでしょうか?
胸の下に、1本のシワがあるのが見えるでしょうか? 生後数カ月の“とっても若い”赤ちゃんにシワ!? なんて、おかしな話ですよね。
抱っこの仕方が悪影響!?
では、次の写真はどうでしょう?
身体の左半分(写真向かって右側)だけにシワがあるのが分かるでしょうか? 赤ちゃんの身体の右半分(写真向かって左側)にはシワがありません。この原因として、「赤ちゃんを抱っこする際、左のお腹を潰すような姿勢を取り続けた」ことが考えられるのです。利き手が右手の人は、どうしても左手で子どもを抱っこする傾向がありますよね。それが、赤ちゃんの姿勢に関係したわけです。
自分で立ったり、座ったりしないころの赤ちゃんの姿勢というのは、お父さん、お母さんやおじいちゃん、おばあちゃんなど、赤ちゃんのお世話をする大人がどんな姿勢でいるのか、ということが影響してきます。
抱っこされる赤ちゃんには自分の姿勢を選択する自由はありません。このことは、赤ちゃんを育てる際に、大人が忘れてはならないことだと私は思います。