最近YouTubeにはまっていることは何度かこのブログで述べた。主に日本に住んでいる外国人の作品を見ることが多いが、目をつむって聞くと、まるでネイティブの日本人のように日本語を流ちょうにしゃべっている人がいるのに驚きを禁じ得ない。(★第367話:日本が大好きYouTuberの活躍参照)
●日本語の人気と難しさ
1990年代以降、「クールジャパン」といわれるように日本国外でアニメーションやゲーム、小説、ライトノベル、映画、テレビドラマ、J-POP(邦楽)など、日本の現代サブカルチャーを「カッコいい」と感じる若者が増え、日本国外から日本への渡航者数が増加し、かつまた、日本企業で勤務する外国人労働者(日本の外国人)も飛躍的に増大しているため、国内外に日本語教育が広がっている。国・地域によっては、日本語を第2外国語など選択教科の一つとしている国もあり、日本国外で日本語が学習される機会は増えつつある。
2021年9月に、単語検索ツールWordtipsが世界各国で語学学習をするに当たり、どの言語が最も人気があるかをGoogleキーワードプランナーを利用し調査したところ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった英語圏を中心に、日本語が最も学びたい言語に選ばれたという。(Wikipedia 参照)
世界でも最も難しい言語と言われる日本語だが、「習うより慣れろ」(Custom makes all things easy.)で、日本に長く住んでいれば、自ずと日本語の会話が上手になるだろうが、それにしても、慣れない生活や日本独特のしきたりの中で耐える外人力士は偉い。相撲では、ガイジンと言えども日本語が喋れない力士はいない。相撲以外のスポーツで外人選手は「助っ人」と呼ばれ、定住したり、ましてや帰化する人は滅多にいない。親方制度で帰化しないと認めないというルールがあるとは言え、相撲取りで帰化する外人は後を絶たないのにも驚きだ。(写真。なお、逸ノ城は引退)
一方、日本人の自分でさえ、一生かかっても日本語のマスターは難しいと感じているほどだが、この動画によると、アメリカ国務省・外交官養成局(FSI)では、言語ごとに習得難易度をランクしていて、他国では半年とか長くて1年なのに、日本語は超難易度で、最低でも2年かかるそうだ。(下記映像参照)
●日本語の特殊性
■ロマンス諸語
ヨーロッバのフランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、そしてルーマニア語はロマンス諸語と言って、共にラテン語を起源としている。(画像)また、オランダ語とスイス語は準ロマンス諸語であり、生活語はともかく、抽象語になるとどこでもほとんど同じで、日本語で言えば津軽弁と鹿児島弁ほども違わないそうだ。
その点、日本語は独りぼっちだ。中国語とはまったく系統が異なっていて、朝鮮・韓国語からも遠い。近年になって朝鮮・韓国語とベトナムは、ハングルやアルファベット表記を採用して漢字を捨てたかに見えるが、根のところには漢字が残っている。
日本人はその不安に耐えきれずに「万邦無比」と、「どうせ日本は…」が交互に出てきて、英語を学ぶ。
前者、「万邦無比」という自信過剰になる場合だが、太平洋戦争中、英語は「敵性語追放」として、内務省が芸能人の外国名・ふざけた芸名禁止を通達(ミスワカナ、ディック・ミネ、バッキー白片、藤原釜足ら16名)。そのため、ディック・ミネは三根耕一と名乗った。たばこもゴールデンバットは金鵄、チェリーは桜とした。プロ野球は、英語の使用禁止、外人選手は日本国籍をとらせた。チーム名も日本語化し、イーグルスが黒鷲軍、セネタースが東京翼軍、タイガースは阪神軍と改称したこともあった。
そして、植民地化した朝鮮、台湾、パラオには日本語を強制し、朝鮮では、三・一独立運動などの独立運動や武力蜂起に対して弾圧、皇民化教育などの同化政策の実施など、いまだに歴史認識をめぐる日本と南北朝鮮の対立の火種となっている一方で、パラオ(地図)のアンガウル州は世界で唯一日本語を公用語として認めていることで知られる。(映像参照)
「どうせ日本は…」という弱気になる場合、戦後、作家の志賀直哉(1971年、88歳で没、写真)が「日本の国語程、不完全で不便なものはないと思ふ」として、フランス語を国語に採用することを主張したり、エスペラント語を公用語にしたいという主張をした。
日本語の独特な表現が翻訳するのに難しく、世界的に認められ難いというジレンマだったようだが、敗戦直後で自信喪失の時代という背景もあったのだろう。
●日本語の歴史
漢字が日本に入ってきたのは、紀元後2世紀から3世紀にかけてというのが通説である。その当時、土器や銅鐸に刻まれて「人」「家」「鹿」などを表す日本独自の絵文字が生まれかけていたが、厳密には文字体系とは言えない段階であった。
「漢字」は黄河下流地方に住んでいた「漢族」の話す「漢語」を表記するために発明された文字である。そしてあいにく漢語は日本語とは縁もゆかりもない全く異質な言語である。しかし、歴史的には日本はずっと偉大なる中華文明の周辺にに位置してその恩恵をあずかってきた。
漢字という初めて見る文字体系を前に、古代日本人が直面していた危機は、文字に書けない日本語とともに自分たちの「言霊」を失うかも知れない、という恐れだった。こういう場合に、もっとも簡単な、よくあるやり方は、自分の言語を捨てて、漢語にそのまま乗り換えてしまうことだ。歴史上、そういう例は少なくない。しかし、古代日本人は安易に漢語に乗り換えるような事をせずに漢字に頑強に抵抗し、なんとか日本語の言霊を生かしたまま、漢字で書き表そうと苦闘を続けた。
日本は表音文字であるカタカナとひらがなを発明した上で表意文字である漢語も併用することにした。巧妙な文字使いであり、賢明な選択だった。お陰で中国から儒教や仏教の抽象語を移入するときも概念が掴みやすかった。
日本語には大きく分けて3種類ある。(図)
日本語では和語(大和言葉)を固有語といい、借用語(漢語と外来語)でない当該言語に固有の語または語彙に該当する。日本語の文例では、「わたくしは学校にいく」のうち、借用語は名詞の「学校」だけで、他の「わたくし」(代名詞)「いく」(動詞)「は」「に」(助詞)はいずれも固有語である和語である。そして、カタカナがあったために我々は西洋の言葉を自在に入れることもできた。
外国語は漢字やカタカナで表現されるので、ひらがなで表記された大和言葉から浮き出て見える。したがって、外国語をいくら導入しても、日本語そのものの独自性が失われる心配はない。その心配がなければこそ、積極果敢に多様な外国の優れた文明を吸収できる。これこそが古代では漢文明を積極的に導入し、明治以降は西洋文明にキャッチアップできた日本人の知的活力の源泉である。
多様な民族がそれぞれの独自性を維持しつつ、相互に学びあっていく姿が国際社会の理想だとすれば、日本語のこの独自性と多様性を両立させる特性は、まさにその理想に適した開かれた「国際派言語」と言える。この優れた日本語の特性は、我が祖先たちが漢字との「国際的格闘」を通じて築き上げてきた知的財産なのである。(Wikipedia 、池澤夏樹「終わりと始まり」参照)
●日本語の魅力
日本語の魅力とはいったいどんなことだろうか。「日本語特殊論」が唱えられることがある。それは、「複雑な表記体系」「SOV構造*」「音節文字」「敬語」「男言葉と女言葉」「擬態語が豊富(オノマトべ)」「曖昧表現が多い」「母音の数が少ない」などを根拠に日本語特殊論がとなえられることがある。
*文を作るときに、一般に主語 (Subject) - 目的語 (Object) - 動詞 (Verb)の語順をとる言語のこと。例:「サム オレンジ 食べた」。日本語ではこれに「が」「を」などの 格標識が入る。他にも日本語の文の「私は りんごを 食べる。」では、"私は"が主語(S)、"りんごを"が目的語(O)、"食べる"が動詞(V)である。言語類型論による調査では、世界の言語の約45%がSOV型言語である。(Wikipedia 参照)
■海外では訳せない言葉
大和言葉は、その響きが魅力の一つで、その音の特徴は、比較的平板で、すべての音韻の母音が、いわば「平等に響く」ことにある。外国の人に聞くと「トヨタ」「はやぶさ」「かわいい」といった言葉を聞いたり発音したりするのはとても楽しい。まるで歌を歌っているようだ。それは一音ごとに「A」「I」「U」「E」「O」という母音がよく響いているからだという。
日本語には海外では訳せない言葉がある。
・木漏れ日
たとえば、「木漏れ日」(写真)も大和言葉である。日本語の美しさと語彙の多さを再認識する言葉の一つだ。英語には該当する言葉がないそうで、英語圏の人たちは、この「こもれび」の意味を知ると、その言葉に驚き、そうやって自然を切り分ける日本語のチカラを絶賛するという。彼らに「こもれび」のことを説明するには、長々とこう言わなければならない。「sunlight filters through the trees - the interplay between the light and the leaves」
森田童子/ぼくたちの失敗(1976年)【春の木漏れ日の中で】
・生きがい
「生きがい」とは、生きる甲斐、すなわち「生きることの喜び・張り合い」「生きる価値」を意味する日本語の語彙。長寿地域を意味する「ブルーゾーン」の概念を広めたアメリカの研究者・作家であるダン・ベットナーが、日本・沖縄の長寿の理由の1つとして「生き甲斐」(ikigai)に言及したことで、2000年代以降の欧米でも広く知られる概念となった。
由紀さおり/生きがい(1970年)
・陽だまり
「陽だまり」という言葉は、豊かな日本の四季や景色を表現するのに使われる言葉の一つ。あたたかな日差しが当たる場所などを意味する言葉となっており、春や春のあたたかさを表現したい場合などに、比較的頻繁に使われている。
Le Couple/ひだまりの詩(1997年)
■漢字の奥深さ
ゴルゴ松本(現在56歳、写真)は、お笑いコンビ「TIM」のメンバーで、ボケ担当。
2011年からボランティアで少年院での「命の授業」と題した活動を始め、メディアにもたびたび取り上げられるようになる。2015年にはこの活動をまとめた著書『あっ!命の授業』を出版。2018年11月、法務省より、法務省矯正支援官を委嘱される。漢字研究家として漢字の奥の深さを伝える様に感動を覚える。
■日本語と漫画
・音訓読み
漢字の大きな魅力の一つは、音読みと訓読みが出来ることだ。熟語になると、音訓の組み合わせの重箱読み(音読みと訓読み)や湯桶読み(訓読みと音読み)というのもある。この音訓読みが日本の漫画文化の源泉だと、医学博士・養老孟司氏(現在85歳、写真)は力説する。
・オノマトべ
日本語のオノマトペは欧米語や中国語の3倍から5倍存在するといわれる。オノマトペがあらわす言葉には、
擬声語:生き物の鳴き声や声を表す(にゃーにゃー、コケコッコー、など)
擬音語:物事や自然の音を表す(ガタゴト、ザーザー、など)
擬態語:物事の状態や身振りを表す(ほっこり、ベトベト、など)
があるが、英語などと比べると、とりわけ擬態語が多く使われるとされる。
漫画などの媒体では、とりわけ自由にオノマトペが作られる。漫画家の手塚治虫は、漫画を英訳してもらったところ、「ドギューン」「シーン」などの語に翻訳者が「お手あげになってしまった」と記している。また、漫画出版社社長の堀淵清治も、アメリカで日本漫画を売るに当たり、独特の擬音を訳すのにスタッフが悩んだことを述べている。(Wikipedia 参照)
●日本語習得術
■歌から入る
日本語の魅力で来日したり、永住を決意した外国人は多い。以下の人たちは日本語の歌を歌う歌手だが、歌から入った方が、習得はスムーズなのだろうか。
・ロシア出身 Alicia Fordさん
・スペイン出身 MANDYBBLUEさん、オーストリア出身 yanacchiさん
次の映像も面白い。スペインとオーストリアという、出自も違う二人の若い女性。今、日本に住んで、プロ歌手として活躍している。彼女たちも日本語で歌い、まるでネイティブの日本人のようだ。
どうやら、平凡な結論になるかも知れないが、日本のことを好きになることと、習得努力を継続することに尽きるようだね。
続く。