「早期回想」とは・・② | 神経質逍遥(神経質礼賛ブログ)

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其れではクライアントの「早期回想」をアドラーの見立てと合わせて、お楽しみください。

 

〇三歳の頃、私は母親が怖かった。いつも黒い帽子をかぶり、その姿はまるで「クランプス(ヨーロッパ中部に伝わる伝説の生き物、クリスマスの悪魔とも言われる 下図参照)」でした。それで私は姉のところに行きました。

私は姉の方が好きだったのです。

 

 

これは9歳の女の子の早期回想です。まず初見の回想内容からアドラーは少女と母親との距離、母親への批判を読み取ります。そのうえで三歳の時少女と親との間に何が起きたのかを推測します。

その「何か」とは、弟の誕生ではないかと、アドラーは推測しました。下の子供の誕生は、少女に対する母親の注目が減少する要因になりえるからです。

 

さらに母親と距離を置く少女は、父親を頼るようになるとも推測します。そのうえでさらにレポートを読み進んでいくと、次のような早期回想がありました。

「弟が生まれたとき、弟はひどく大きな声で泣きました。そして私は母親に言いました。「こんな赤ん坊いらない、だってこんなに泣くんだもの」

まさにアドラーが推測したとおりです。弟の誕生により、母親の愛情を独り占めに出来なくなった少女の姿が浮かび上がってきます。

 

〇僕たちはリトルフィールズに住んでいた時、スイカを盗んでいた。小さいころ床にウサギの穴があった。僕はその中にマッチを入れていたが、マッチがベッドに落ちて火が付いた。兄は慌てて走って父を呼んだ。

 

 

こちらは12歳の非行少年です。まずアドラーは「僕は盗んでいた」ではなく、「僕たちは盗んでいた」と言う表現に注目します。この他人事のような表現は、少年が非行軍団の影響を受け、一種の洗脳状態にあったのではないかと推測します。

また「兄が慌てて父を呼んだ」と言う表現から、この少年は何か事故が起きても、誰かがいつも助けてくれると信じているのではないか。とも推測しています。自分の劣等感を克服しようとせず、前向きに何かに取り組むことを恐れているようです。

 

アドラーは総合的に分析して、この少年がリーダーシップを好むあまりに、自分を見失っていると判断します。そして少年の父親に、少年を罰するのではなく、「お兄さんやギャングの援助を受けなくても、君は十分強い存在なのだということを、確信させられなければならない」と、勇気づけのアドバイスまでしています。

 

〇私は四歳の時、上手に絵が描けませんでした。

 

 

9歳の女の子の回想です。アドラーはこの他愛もない回想にも特別の関心を寄せています。「なぜこの娘が絵を描くことを~早期回想として~選び出したかに興味があるのです。おそらく彼女は絵を描くことに特別な関心があり、しかも絵を描くことに相当苦心していたのでしょう。おそらくこの娘は、左利きだったのではないかと推測します。

 

アドラーは右利きか左利きかを知る方法についても言及しています。『子供に指を組んでもらい、もし左の親指が上に来れば、その子は左利きです。』子供は自分ではこのことを知りませんし、両親もたいてい知りません。

その後も少女の回想をさらに解読したアドラーは、この少女の人生の指標が「困難には立ち向かっていかなくてはならない、そうすれば万事うまくいく」と言うものであったと推測しています。

 

〇僕は、今も祖母の埋葬式、棺や霊柩車の事をよく覚えています。

 

 

ある男子の回想です。年齢はわかりません。アドラーも幼少のころ弟の死と言う、ショッキングな体験をしました。それで医師になる決心をしたのですが、この男子にも同じ傾向が認められるとして、この男子が医師になることを決意したかもしれないと推測しています。

別の男子に、「将来何になりたいか」と尋ねました。すると「墓堀り人」になりたいというのです。なぜかと問うと、「僕は他の人を埋葬したいが、他の人に埋葬されない人になりたいから」と答えたのです。

 

この男子もまた同じように、死を克服しようとしているのがわかります。しかし医師になりたい子供は「共同体」に貢献しようとしていますが、「墓堀り人」になりたい子供は、『自分の事しか考えていない』とアドラーは解釈します。

したがって前者はコモンセンス(共同感覚)に従ったライフスタイルであり、後者は私的論理に従ったライフスタイルに準じている。と、アドラーは推測するのです。

 

参考・・・「教育困難な子供たち」、「アドラーを読み解く」