お腹の調子が変だと言って、電車やバスに乗るのを苦痛に感じている人がいます。乗り物で立っていると、揺れも手伝ってか、げっぷが出たりおならが出そうになるというのです。
あるいはそれを我慢していると、だんだんお腹が張ってきて、やがて心臓のあたりが痛くなり、気分も悪くなってしまうそうです。
ここだけ聞いていると、胃腸のどこか異常があるように思われますが、実際この人には、胃腸に関しては器質的異常は見当たらないのだそうです。
ここで考えられるのは、ストレスとか精神的な葛藤を抱えていると、それが身体的な表現をとる場合があるということです。
例えばある患者は首が横を向いたまま動かないと訴えてきました。体は問題なく動くのですが、首だけがどうしても正面を向かないのです。
まるで古代エジプトの壁画です。
整形外科などで詳しく調べてもらったそうですが、特に異常はないのです。これも心身症の一つの形かもしれません。
別のある人は、母親を介護中に、手の震えが止まらなくなってしまいました。これも原因がわかりません。この人は母親に対して強い憎しみを抱えていました。ところが自分にも周囲にも「良い娘」を演じていたのです。カウンセラーの勧めで母親へ罵詈雑言を浴びせた結果(もちろん直接ではない)、手の震えがピタッと止まったそうです。、
心が抱えた問題が、身体症状として現れる場合を、昔は「心身症」と言いました。
今はもっと細分化されています。
まずは「身体症状症」
長期にわたり、自分の身体症状にとらわれ、「重病ではないか」と心配し、ドクターショッピングをしたり、様々な治療法を試したりします。
このタイプは医師から「異常なし」と言われても、その不安や捉われは解消されません。
うつ病でも同様な捉われが生じることがありますので、鑑別診断は重要です。
もう一つが、「病気不安症」です。
これも「重病なのではないか」と不安になるのですが、こちらは身体症状はほとんど無く、身体症状の苦痛を訴える身体症状症とは異なります。症状自体の苦痛よりも、原因や病名に対する不安が重要な意味を持つのです。ドクターショッピングを繰り返す事もあれば、逆に必要な医療さえも回避することもあります。
この患者さんは他人の病気やニュースに接しただけでも容易に病気への不安を引き起こします。
胃とか心臓の動きは、自律神経に支配されています。よく自律神経失調症と言われますが、あれは自律神経の中枢が感情中枢などと同じ場所にあるために、精神的な失調がそのまま自律神経の失調に繋がってしまうのです。
もちろん現れ方は人それぞれですが、心臓に現れる場合を心臓神経症、胃腸に現れるもの、例えば胃が重苦しくなる、便秘や下痢を繰り返す、おならが出やすくなる、と言うのは胃腸神経症と呼ばれるものです。どちらも検査を受けても器質的異常は発見できません。
このようなときは、医師の診断に従って、そのまま健康的な生活をしていくことです。上記のような症状があると、何か器質的な異常があるに違いないと思い込み、大事をとって動かなかったり、やるべきことをやらなかったりしますので、ますます日常生活が後退していきます。そうするとますます症状に対する捉われがひどくなってしまいますので、あえて健康な人間であるかのように、振る舞っていればよいのですね。
これから精神的な健康について述べていくわけですが、精神的に健康か不健康かは、明確な境目はないということを、知っておいていただきたいと思います。
参考・・・「不安のありか」