さて、これからしばらくの間、青木薫久氏の講話をお届けしようと思います。
え?・・・アオキシゲヒサ?・・・誰それ?
と言うお方もおられると思います。最近は余り表舞台に出ていらっしゃらないので、仕方がない面もあるでしょうね。
でも、本当はすごい方なんですよ。私も大変お世話になりました。
ここで簡単に青木氏のプロフィールをご紹介します。
本業は精神科医です。北海道大学を卒業後、慈恵医大神経科にて高良教授に師事、今日に至るまで心の悩みを持つものと対面されています。また最近は地球環境維持のための人間の生きるべき道について、森田療法の観点から研究発表をされています。もし余裕がありましたら、その取っ掛かりくらいは説明したいと思っています。
また青木氏は沢山の著作を持っています。なかでも1999年に初版が発行された『心配性をなおす本』は、60万部を超える大ベストセラーになりました。
今回の講話のテーマは、『ヒポコンドリー性基調の構造と、森田理論八原則の概説』と言うものです。なんだか難しそうですね。
でも大丈夫ですよ。ヒポコンドリー性基調については、今までこのブログでも何度か触れていますし、八原則についても、このブログで紹介したものばかりです。
ただ、ばらばらで系統立てて紹介した事はないので、あまり理解は進んでいないかもしれません。
そんな皆さんにも、これから紹介するお話は、新鮮な響きが感じられると思います。
本論は次回から入りたいと思います。
まずは青木先生じきじきに、森田療法の紹介がありました。
そこで先生から、一言ありました。
『ここでお話しするのは、森田理論のお話です。森田療法の話しではありません』
聴衆一同『???』になりましたが、私(を含めたベテラン)は、ぴんと来るものがありました。
実は青木先生、私が神経質者の会に入会した頃、会の理事か何か忘れましたが、要職についておられました。
ある日の神経質者の会の分科会の席、私と青木先生が同じグループになりました。
私は先生を始め、皆から認められたい気持ちが強くて、やたら、
『森田療法は・・』
『・・が、森田療法の特徴です』
みたいな風に、一人演説をしていたのです。当時は得意になっていましたが、今思い出すと顔から火が出ますよね。すでに森田の大御所であった青木先生の前で、森田を論じてしまったのです。
そんな演説中? 青木先生から待ったを掛けられたのです。
『君、さっきから森田療法、森田療法と言ってるが、君は医者なのか?
患者を治すわけでもないのに、療法は相応しくない。あえて言うなら、森田理論と言うべきだ。』
そのとおりだと思いますね。
素人集団である神経質者の会が、やみくもに『療法』と言うのは違和感があります。ですから私もなるべく『理論』と言うようにしているのですが、ついいつもの癖で『療法』と言ってしまう事があります。
このブログでも『森田療法』と書いてしまうこともありますが、その際は『森田理論』のことだと読み替えてくださいね。
森田療法の大きな特徴の一つは『解りやすい』と言う事です。言葉は難しいかもしれませんが、言わんとする事は単純です。精神療法を良く知らない人でも、一通り読めば理解できます。
『解りやすい』事は、『程度が低い』事とイコールではありません。森田の場合、解りやすいにもかかわらず、理論の中身は深いのです。
だから森田には終わりがありません。勉強すればするほど疑問が湧いてきます。生涯勉強と言われるゆえんです。
ある書店には森田理論の本が、お料理や手芸の棚に並べられていました。心理学の棚では無いのです。
それくらい『森田』は手軽で解りやすいのです。
森田理論が誕生し、今年で100年になります。
けれど順風満帆に船出が出来たわけではありません。当時は(今でもそうかもしれませんが・・)西洋の物質主義、能率主義がなだれのように流入してきました。日本の精神医学も西洋医学を取り入れるのに必死で、日本生まれの精神療法など誰も振り向いてくれなかったのです。
相対性理論や量子力学などを勉強しまくりました。けれど良く解からないのですね。解らないならやさしいものを勉強すれば良いのに、『解りやすいものは学問ではない』と言った風潮があったのです。
残念な事ですが、今でもわが国の精神科医は、認知行動療法や薬物療法にばかり偏り、森田療法を余り重要視していないように感じられるのです。
ここだけの話しですけど、現在森田療法はワールドワイドになっているんですよ。西洋先進国の多くの医師は森田療法の勉強をしていますし、実際に森田で効果をあげている医師も沢山居ます。
ある組織では、認知行動療法のトップ(極めつけ)の位置に、森田療法を置こうという動きさえあるのです。
そういえば現在の認知行動療法の『第三の波』として有名なマインドフルネス認知行動療法や、ACTなども非常に森田に似通っていますよね。
日本の若い医師が西洋の精神医学を学びに出かけたら、『日本には森田療法と言う優れた精神療法があるじゃないか』と言われたそうです。
一番森田療法を知らないのは、日本の医師たちかもしれません。