どんな子供でも、その子なりの成長ベースやオリジナルなリソースを内在しているものです。成長ペースのことを言うと、まさに子供の成長は百人百様です。同じ育て方をしても、成長の早い子どもも居れば、成長の遅い子もいます。今の大人は子供の促成栽培を目指しているようなので、どうしても成長の遅い子は問題視されがちです。しかし、成長が早ければ良いと言うものでもありません。
小さい頃は手がかかったり、ぱっとしなかったりしても、後になってぐんぐん伸びる子もいます。しり上がりに伸び率が上がって行くタイプの子もいます。こういう子供に対して親や先生は、『何でこの子はいつもこうなのだろう』と思っていますが、その子は今そういう状態に居る内面的な必要性があるのです。外からは見えなくても、本人の内側では確実に変化が進んでいるのです。
例えて言えば、さなぎと同じです。
さなぎは外側からは変化がわかりません。けれど内側では確実に変化が起きています。時期が来れば自分で殻を割って成虫として飛び立ちます。
同じように、親や先生が子供本人に内在するペースを大切にしてあげれば、子供は必要な発達段階をしっかり踏み固めながら、着実に進んでいく事が出来ます。無理に急かしてしまうと、課題をこなせないまま進む事になりかねません。芋虫をいくら急かしても、早く蝶にはなれないのです。
また、子供には独自のペースの他に、独自のリソースを持っています。これは子供自身が気づいている場合と、気づいていない場合があります。子供が夢中になってやっていること、あるいは時間を忘れて集中しているものがありますか? もしあったらそれが子供のリソースなのかもしれません。ところが大抵の親は勉強の邪魔になるとして、それをやることを禁じてしまいます。
当然子供はストレスがたまります。ストレスは当然勉強に対するやる気にも影響します。
『さかなクン』ってご存知ですよね。
彼のお母さんは、魚に夢中になっている幼いさかなクンの興味を阻止する事は一切しませんでした。魚とともに興味があったゴミ収集者が来ると、いつもいっしょに眺めていました。魚に関する本も沢山買い与えました。そればかりではありません。
空いた時間が出来ると、幼いさかなクンを水族館とか、大きい魚屋さんとか、魚河岸とか、遠洋漁業の基地とか、湖とか、川とか、沼とか、とにかく魚が居るところ連れまわしたそうです。もちろん幼いさかなクンは夢中になって知識を吸収していたそうです。
その後の彼の活動はご存知ですよね。また、彼の頭脳はずば抜けて発達しているとの見解を発表した脳科学者も居ました。彼によると私たちは好きなこと、興味のある事に接していると、それだけ脳の発達に良い影響を与えるようなんです。ですから逆に、興味のない事をやらされている状態は、ストレスがたまるだけではなく、脳の発達にも悪影響を及ぼしていたんですね。
余談です。さかなクンは中学に入ったとき、吹奏楽部を希望したそうです。別に楽器や音楽に興味があったのではありません。
『吹奏楽部』を『水槽学部』と勘違いしたらしいんです。入部してからどこにも水槽や魚が居ない事に愕然としたそうです。
隠れたりソースは子供だけのものなんでしょうか。
それは違います。大人であっても、イヤイヤ老人であっても、隠れたリソースを持っているかもしれないんです。
『ジョハリの窓』はご存じですよね。人間には四つの側面があり、それぞれ『開放』、『秘密』、『盲点』、『未知』の窓と呼ばれています。
隠れたリソースは、この『未知』の部分に隠されています。勿論本人も周りの人も、その存在に気づきません。ところが在る縁に従って、それは発芽してくるのです。
100歳の詩人、柴田トヨさんをご存知でしょうか。
彼女が詩を書き始めたのは、90歳を過ぎてです。愛し合っていた旦那さんが急逝し、来る日も来る日も泣き続けていたトヨさんに、詩を書いてみないかと勧めたのは、息子である詩人の健一さんでした。
その後の彼女はめきめき才能を開花させ、皆さんご存知のように大詩人になられたのです。
彼女が90歳のとき、誰がこんな未来を予想したでしょうか。
子供には子供なりの成長ペースがあります。また、今は目に見えないけれど、将来花開くようなりソースを隠し持っているのです。
ですから、親や先生に必要なのは、『待つ力』です。待てない大人は子供の内なるペースを乱してしまいます。子供のリソースに気づかず、型にはまった子育てしか出来なくなってしまいます。これは子供にとって実に不幸な事です。
ぜひ、『待てる大人』であって欲しいと思います。
参考・・・『親野 智可等』講演会より