このタイトルを初めて見た方は、森田療法って、認知症にも効果有るんだ・・・って思われたかもしれません。
しかし残念ながら、森田には認知症そのものを改善するエビデンスは得られておりません。
森田は感情に働きかける治療法です。認知症そのものは脳の器質的以上から発症するものですが、その症状は大きく分けて二つあります。
一つは、認知機能の低下によって直接現れてくる症状で、これを中核症状と言います。中核症状は認知症になった方のほとんどに見られます。
これに対し、『周辺症状』、あるいは『行動・心理症状』と呼ばれるものが有るのです。これはさまざまな要因が絡み合って生じるもので、介護のやり方や環境によってあらわれ方に極端な差があります。ですからそのかかわり方によっては、ほとんど症状を出さずに、経過させることも不可能ではないのです。
『行動・心理症状』と呼ばれるものには、下記のような種類があります。
不安恐怖、妄想、帰宅願望、介護抵抗、収集癖、不潔行為、異食行為、感情失禁、夜間せん妄、頻尿、抑うつ、脱抑制・・・
これらを一つ一つ説明していくことは出来ませんが、これらの症状が起こる大本を探っていきますと、患者さんの抱くマイナス感情にぶつかる場合が多いのです。
認知症と言うと、なんでもすぐ忘れる病気、と思っている人が少なくないようですが、違います。体験した内容は忘れてしまっていても、そのときに感じた感情は、残っています。自分を叱った相手への憎しみや怒りの感情を中々消すことが出来ないのです。そういったどうにもならない感情を何とかしようと行動に移してしまうのが、『行動・心理症状』なのではないでしょうか。
先ほどあげた『行動・心理症状』を思い出してください。あのような症状を引き起こす裏側には、下記のような感情が処理できずに残っていると言われています。
不安感、とまどい、自責感、焦燥感、被害感、絶望、くやしさ、悲哀、意欲の低下、自発性の低下、無気力、無関心・・・
このような感情をどうにかしようと過度にコントロールしようとする態度が、いわゆる『周辺症状』を引き起こしていると、解釈するのです。
こういう場合の森田の処方箋は、こうです。
まず、不快な感情を悪しきものと考えないこと。取り除こうとしないこと。そして、症状の意味を問うことなく、不快な感情に対する態度や行動のみを問題にすること。
さらに、昨日も指摘しましたが、不安やマイナス感情が生じるのは必然であること。不安やマイナス感情の中に、患者の知られざる欲望が隠れていること。(たとえば、しっかりしたい、自分でやりたい)
これらの欲望に沿い、自分に出来ることや、再開できることに挑戦するきっかけにしていただきたいと思うのです。
とはいえ、自分のやりたいことを見つけ出すのは、難しいでしょう。そういう方には、ご自分の生活暦を検証してもらいたいのです。自分はこれまでさまざまな事をやってきた。その中で砂金のように光る業績や栄光を再認識していただきたい。それが自己肯定感につながるはずです。
今まで出来ていたことが出来なくなっているかもしれません。けれども新しいやり方や工夫を加え、それまでのように得意な事を続けられる可能性を模索していくことです。
それには、出来なくなっている要因をすべて認知症のせいにしていないか、改善可能な機能は有るだろうか。と言った事を考えていただければ、と思うのです。
なんでも一人でやろうとしていないですか?
他人の助けを受け入れられる寛容さも必要です。それは言い換えれば自分の弱さを認めることでも有るのです。
自分の弱さを真正面から認めた人ほど、強いものはありません。
そう。あなたはすでに自分が認知症で有ることを認めた訳です。それはとても勇気有る決断だったと思うのです。
以上で認知症と森田についての記事は終了します。
ありがとうございました。