『天蓋都市ヒカル』 | marginalia

小鳥遊書房さまより、荒巻義雄『天蓋都市ヒカル』を頂戴いたしました。

 

 

『海没都市TOKIYO』に続く「都市シリーズ」第2弾ということのようですが、今回の目玉はまずいくつかの前提で生成AI(ChatGPT)に「小説」を出力させ、それ(ほぼプロット)をもとに作り上げた長編ということです。「実験小説」とありますが、実験的な内容ではなく書くことそのものが一種の「実験」である、という意味での実験小説です。もっとも実際読んでみると内容的には全然いつもの作家・荒巻義雄のレトロフューチャーなSF小説です。最近の荒巻SFの最大の特徴は、「知識小説」と言ってもいいような固有名の乱舞するいっそペダンティックでさえあるような世界構築のありようです。そういえばその昔某賞の選評でマグリット的な世界をあらわすのに「マグリットのような」という記述はいかがなものかと書かれていたことがありましたが、むしろそのように書くことにこそ荒巻SFの「SF性(これはマニエリスムと言い換えてもいいかもしれない)」があるのだとちょっと強弁してみたい誘惑に駆られる個性というか「方法」だと思います。物語の「型」や語彙にめまいがするようなレトロ感があるのもだんだん慣れてきて、前書きで書かれている作家の過去、嗜好や経験が小説の縦糸になるという話も相待って、文学というのは記憶の芸術であることよなあという感慨に浸りました。